新たに田村芽実、井上瑞稀、富田鈴花ら迎えた名作の魅力とは
実力派キャストが描く、ショービジネスの光と影。大竹しのぶ主演ミュージカル『GYPSY』開幕
2026.05.09 20:45
2026.05.09 20:45
親が子に託す夢は本当は“誰”のための夢?
今作の魅力は、楽曲の素晴らしさももちろんのこと(『ウエストサイドストーリー』の作詞などで知られる巨匠、スティーブン・ソンドハイムが作詞を担当している)、実力派のキャストが顔を揃えた点にもある。今回、タルサを演じたのはKEY TO LITのメンバー、井上瑞稀。それなりに舞台経験はある彼だが、今回の役柄でその実力にびっくりした人は多いのではないだろうか?

特に一幕の「彼女さえいれば」は、まさに彼の最大の見せ場。会見では「タルサの思いや過去が歌詞の中から見えてくる大事なシーンなので、大切に演じたい。この楽曲では、姿勢を意識することが多く、オーケストラの方々が音を合わせているときでさえ、曲がかかると自然と背筋が伸びるようになりました」と語った井上だが、ときにフレッド・アステア調、ときにタップダンスと往年のミュージカルらしさがたっぷりと詰まったクラシカルで王道な振付のダンスを踊りこなしている。スラリと伸びた体躯で、舞台上を滑るように軽やかに踊るその姿には、誰もが見惚れてしまうのではないだろうか。

そしてその実力に驚かされたといえば、ジューン役の富田鈴花もまたその一人だ。日向坂46を昨年卒業した富田は、本作でキャリア2度目のミュージカル出演。もともと歌唱力には定評のあった彼女だが、こんなにもミュージカルでの実力を持っているとは! 子役らしさを強いられているジューンという役をしっかりと演じながら、安定した歌唱力で観客を魅了する。ルイーズ役の田村芽実とのデュエットシーン「ママが結婚したら」でのハーモニーもお見事、今後の舞台での活躍が何とも楽しみだ。

そんなルイーズ役・田村芽実の実力についてはもはや説明不要だろう。数々の注目作に抜擢が続き、もはや日本のミュージカル界において、なくてはならない存在となっている彼女。2026年は『PRETTY WOMAN The Musical』に引き続き2本目の出演作となるが、演技といい歌といい存在感といい、彼女の実力が十二分に発揮された作品といえる。特に後半、ストリッパーとして“覚醒”したあとの彼女の変貌ぶりといったら! “ジプシー・ローズ・リー”という名前を得ることで、まるで別人のように堂々とふるまえるようになった彼女だが、内面にはかつての“ルイーズ”が存在している……そんな繊細な演技で、大竹しのぶを相手に堂々と対峙している。後半、2人の関係性の変化には要注目だ。

作品は1900年代の初頭から……歌、踊り、寸劇、手品、曲芸など、多様な演芸を詰め込んだバラエティショー形式の娯楽「ボードビル」がまだ華やかりし頃からスタートし、1920年代末から始まったトーキー映画の台頭でボードビルが衰退していく、その時代の移り変わりを背景としている。
「子役とステージママ」という関係性はこの『GYPSY』という作品のみならず、今でもよく見聞きする構図だ。しかし今作を観ていて思わされるのは、ここで描かれているのは「芸能界という特殊な世界での話」ではなく、全ての親と子の間にある関係性であるということ。時代が移り変わるように、親子の関係性もさまざまな気づきや変化が起こる。母が、親が、子たちに託す夢は、一体本当は“誰”の夢なのだろう? そんなことを考えさせられる。人によっては、ラストシーンの解釈や感じ方もかなり違うかもしれない。
ゴージャスなオーケストラの生演奏と、名曲とともに繰り広げられる、ときに華やかで、ときに痛みを伴う“人生”の光景。名作が名作たる所以を、しっかりと感じることができるはずだ。




