2026.05.05 16:00
2026.05.05 16:00
いつだって性善説と個人の想像力を信じたい
──鴻上さんとのクリエイションは、『イントレランスの祭』(2016年)からちょうど10年ぶりですよね。
はい、あれからもう10年になります。
──10年を経て、改めてどうですか。
鴻上さんはエネルギッシュで、誰よりも声が大きい(笑)。演技のイメージを提示してくださる際に、鴻上さん自身がまず演じることがあるのですが、その完成度がすごいんです。アクティブにモノづくりをしようとされている印象は、10年前からまったく変わりません。

──岡本さん自身もこの10年でいろんな変化をされてきたと思うのですが、そのあたりはいかがでしょう。
一定の距離を置きながら、見守ってくださっている気がします。私の芝居に対する演出も、『イントレランスの祭』のときよりもすごく細かい。この10年という時を経て、信じてくださっているのを感じています。
──いま改めて感じる、演出家としての鴻上さんの魅力はどんなところですか。
やっぱり、他者を信じているところですね。そして、大きな愛情を持っているところ。普段から鴻上さんの言葉はストレートなのですが、大きな愛情を持って他者を信じようとされているからこそ、どの作品も温かいんでしょうね。
──すごく納得感のある言葉です。
鴻上さんたちと一緒に『トランス』と対峙しているいま、私は自分自身の臆病さやマジメさを改めて実感しています。自分のそういうところに囚われることなく、頭で考えるよりも心の素直な反応でみなさんと向き合いたいし、この作品と向き合いたい。でもこの態度って、自分や誰かを傷つけてしまう可能性もあるんですよね。
──心にまとっているものを脱いで、むき出しの状態になるからですか?
そうです。でも、それこそが人間の営みだと思うし、素晴らしさだとも思います。この作品に接していると、誰かと一緒に生きているということを強く実感します。

──俳優は“心”を扱う職業だと思うのですが、健康的に活動を続けるために岡本さんが意識されていることはありますか。
私は性善説を信じています。いつだって、信じたいと思っています。
──性善説ですか。
たとえば、誰かから攻撃されたとしますよね。そんなとき、私は相手が攻撃するに至った背景について考えます。どんな理由があって、攻撃的な発言をするに至ったのか。しなければならなかったのか。自分の脆い部分を守るために、攻撃的になったのかもしれません。そんなことを、いろいろと想像します。想像することを大切にしているし、信じていますね。でも、自分が本当に傷ついてしまったときは、恐れることなく独りになります。
──目の前の相手から離れるということですね。
はい。独りの時間を大切にするようにします。
──俳優活動は個人のものですが、映画や演劇などの創作は集団で行うもの。それを岡本さんはずっと重ねているわけですもんね。休む時間もないんじゃないですか。
そんなことないですよ。ただ、『トランス』の稽古場は、みんな休憩しませんね(笑)。風間さんも伊礼さんも、稽古がはじまる5分前には、すでにふたりではじめている。そんな稽古場なんです。
──これは三人芝居ですが、つまり稽古場には座長が三人いるってことですか?
いえいえいえいえ! ふたりの先輩を前に、私はそうは思ってないですよ……。
──そうなんですね(笑)。おふたりとはどういうふうに信頼関係を築いているのでしょう。
お芝居のタイプもそれぞれですし、取り組んできた作品や演じてきた役もさまざまです。どんな役者だって、得意不得意があるものです。私の苦手なところをふたりがカバーしてくれますし、信頼してくださっているのも感じます。互いに深くリスペクトし合える関係で、心地いいです。

──『トランス』は素敵なセリフで溢れていますが、ナンセンスギャグも満載ですよね。
そうなのです……。私はこれに困っております……。
──そうなんですか(笑)。
私自身のキャラクター的にも、これまではあまり、面白さを求められることがなかったので、苦戦をしております……。
──そのあたり、ふたりの先輩にカバーしてもらっているんですかね。
あのおふたりはさすがですよ。私とは違います(笑)。ただこれに関しては、あまり頼ることはできません。私は私で、紅谷礼子という人間とその人生に向き合わなければならないので。正直なところ、逃げ出したくなりながらも、「逃げるな!」と自分に鞭打ってギャグシーンに飛び込む日々です。
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