「TOKYO POP CHRONICLE」特集 第1回
「東京はいいなあと思っていました」シティポップの立役者・伊藤銀次の名曲回想録
2026.08.02 12:00
2026.08.02 12:00
「DOWN TOWN」は本当は“アップタウン”の歌なんです
──シュガー・ベイブと関わり始めるのもこの頃からですか。
ちょうどその頃に山下(達郎)くんと知り合いました。「グッド・ナイト・ベイビー」のヒットで知られるザ・キング・トーンズがアルバムを作るから曲を書いて欲しいって言われたんです。それで、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズみたいに踊りながら歌える曲があったらかっこいいなと思って、“DOWN TOWNへ繰り出そう”っていうサビができたんですよ。ところが、Aメロができなくてどうしたものかと思っていたんですが、そういえば山下くんも依頼されているって言っていたことを思い出して、それで電話してみたんです。それで「サビしかできなくて困っている」と言ったら、「じゃあ一緒に作ろうか」って話になって。それで山下君が残りのメロを書き、僕が詩を書いて作ったのが「DOWN TOWN」なんですよ。

──そうやってあのシュガー・ベイブの名曲が生まれたんですね。
面白いのが、元のアイデアは僕なんですが、具体的に曲として形にしたのが山下くん。とてもいい組み合わせなんです(笑)。僕はフォー・トップスみたいな曲をイメージしたんですが、彼はその頃アイズレー・ブラザーズを聴いていたから、あんな感じにしてみようって。そうやって3曲作ったんです。
──3曲もですか。
そうです。1曲は、後に大瀧さんと山下くんと3人の名義で発表した『NIAGARA TRIANGLE VOL.1』(1975年)に収録されている「遅すぎた別れ」。ちょうどその頃、バリー・ホワイトが低音の声で語る曲が流行っていて、あれをザ・キング・トーンズにやってもらおうと。それで山下くんがブワーッと一気に曲を作って、僕はレコード大賞の新人賞を獲った麻生よう子さんの「逃避行」の歌詞をヒントに、男が女の子のことをあきらめて旅に出るっていう歌詞を書きました。この曲に「ああ、ベルが鳴った」という歌詞があって、ただのデモテープなのに駅のベルの音を使いたいねってことになって、山下くんと村松(邦男)くんと3人でデンスケ(テープレコーダー)を持って笹塚の駅までベルを録音しに行ったんですよ。でも、最初に録りに行ったところが小鳥屋さんの近くで、帰って聴いてみたら鳥の声しか入っていない(笑)。それでもう一度踏切を渡った反対側まで行って録音したこともありました。
──すごく気合いの入ったデモテープですね(笑)。
もう一曲は、フランク永井さんが1982年に歌うことになった「愛のセレナーデ」。これはマーヴィン・ゲイの「ディスタント・ラヴァ―」っていう、遠くにいる恋人に想いを馳せる歌があるじゃないですか。その曲の歌詞が大好きだったので、そういうバラードにしようよって提案して、山下くんが曲を作って僕が詞を書いたんです。こうやって3曲作ったんだけど、結局ザ・キング・トーンズの企画が無くなっちゃって、その3曲もお蔵入り。そうこうするうちにシュガー・ベイブのレコーディングが始まって、山下くんたちは「DOWN TOWN」をレコーディングしたら、なんとシングルになっちゃったんですよね。
──この時点では銀次さんはまだシュガー・ベイブのメンバーではないのに、デビューシングル「DOWN TOWN」の作詞を担当しているっていうのが不思議ですね。
本当にそうですよね。もしもあの時点でザ・キング・トーンズの企画に採用されていたら、シュガー・ベイブではやっていないだろうし、EPOがカヴァーして『オレたちひょうきん族』に使われてみんなに愛されていることなんてなかったかもしれない。

──そう考えると数奇な運命をたどった一曲ですね。
しかもあまり売れなかったからね。今だから言えるけれど、当時の山下くんはライヴをやる度に怒っていましたよ。「なんで俺たちはウケないんだ!」って。シュガー・ベイブってソフトロックのイメージだけど、リズムはけっこう激しいんですよ。だから、当時のリスナーは、聴くためのきれいな音楽なのか、身体を動かしていい音楽なのかがわからなかったんだと思う。
──「DOWN TOWN」はとても東京っぽさを感じる一曲ですが、どこかの街をイメージしたのでしょうか。
あの頃、渋谷に西武やパルコができて、どんどん若者の街に変わっていった時期があったんですね。ロンドンにあるようなオシャレな電話ボックスが設置されたり、「壁の穴」っていうパスタ専門店がオープンしたり。そういうのを見て、良いなと思って、この街を舞台にして書いたつもりだったんですよ。でも本来だと下町を意味する“ダウンタウン”ではなく、“アップタウン”なんですよね(笑)。あとはペトゥラ・クラークの「恋のダウンタウン」というヒット曲があって、中学生の頃からあの曲の歌詞が好きだったんですよ。山下くんは「銀次の出身地の大阪のダウンタウンだろ」って言うんですけど、全然違うんです(笑)。
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