2026.05.19 18:00
2026.05.19 18:00
今はまだ、自分の芝居に探り探りの段階
──エリカをひとりの女性として捉えたとのことですが、あまりキャラクター然としたものにしたくなかったのでしょうか。たとえば、富江みたいな。
エリカを演じる私としては、そんな心持ちでした。とはいえエリカを中心にこの物語は進んでいきますし、劇中で恐ろしいことをします。そしてそれはこの作品で描かれている以前から繰り返しやってきたことのはずで、これから先もやっていくに違いない。そういう一面はキャラクターっぽく、観てもらった時に大きな印象をつけないと、と思っていました。

──まさにそうなっていますね。
エリカは普通に仕事に行きますし、ちゃんと働きます。他人とのコミュニケーションも当たり前にとることができます。でもふと何かをきっかけに、狂気に走ることがある。このバランスを大切に演じられたらと思っていました。そういえば、撮影に入る前に監督から、エリカのプロフィールのようなものをいただいたんですよ。
──なるほど。どんなことが記されていたんでしょう。
彼女の家族関係のことなどです。どうしてあんなに愛情に飢えているのか、これを目にして納得しましたね。エリカは親から愛情を注がれることなく育ったんです。それが彼女の抱える孤独や寂しさの根っこにあるもので、ときに狂気的な行動をもとらせる原因です。
──劇中の姿を観ていて、それは何となく感じました。彼女がとる異常な行動は、孤独を埋めるためにやらざるを得ないものなんだろうなと。演じるうえで手がかりになったものとして、他に何かありますか?
エリカの持つ性質そのものについて、いろいろと調べましたね。彼女の感情はつねにジェットコースターのようで、さっきまでニコニコしていたはずなのに、ほんのちょっとしたことで危うい方向へと進んでしまう。私なら許せることでも、それが彼女にとっては許せないことだったりする。理屈では説明できないところに歩み寄っていく姿勢が必要でした。
──感情がポジティブなものからネガティブなものへと一瞬で転じたり、0から100まで一気に跳ね上がったりしますよね。演じるうえでのスイッチの切り替えが大変そうです。
すごく大変でした……。ただ、台本をいただいてからクランクインするまで、けっこう時間が空いたんです。これが大切な準備期間になりました。
──じっくりと役づくりに取り組めたと。
何をしていても、ふとエリカのことを考えてしまう。すると自然と台本に手が伸びる。そんな日々でした。こういう言い方は少し変かもしれませんが、“エリカに縛られていた”とも言えるかも。いま振り返ってみて、そんなことを思います。

──いち観客としてはこれがフィクションだと分かっていながらも、演じている本人が心配になったりもします。エリカを演じる以前にひとりの人間ですから、感情を爆発させるシーンが続くと、「大丈夫なのかな……?」って。
ありがとうございます。たしかに、エリカと向き合うようになってから、私自身にも変化が起きました。私は幸せを感じちゃいけない、そう思ってしまうようになったんです。
──どういうことでしょう。
エリカを演じる人間として、私自身が満たされてはいけないと感じるようになったんです。
──エリカと同じような状態でいるべきだと思うようになったわけですね?
そんなこと絶対にないんですけど、私自身はそう思ってしまって……。そんなとき、周りの方々が助けてくれました。役の理解を深めるために考えることは大切だけど、その前にまず、自分自身を大切にしなければならない。自分というものを見失ってしまったら、いつかお芝居もできなくなってしまう。そう気付かされました。
──林芽亜里という人間があってこそ、エリカというキャラクターが成立するわけですしね。
お芝居を語るなんてまだまだできる立場では無いですけど、役を演じるうえで、ちゃんと自分を保つことが大切。エリカは私の身の周りの方々につくっていただいたものでもありますね。

──普段から林さんは、演じる役にのめり込んでしまうタイプなんでしょうか。
今回は特別だったと思います。エリカはとても複雑なキャラクターだから、ひとつのセリフをとっても何か裏があるんじゃないかと考えてしまったり。表向きは可愛らしい20歳の女の子だったからこそ、その実態に触れるためには深くまで潜っていく必要がありました。
──それこそ、歩み寄っていくために。
そうです。でも、そもそも私はまだ、自分自身がどういうタイプの俳優なのか明確になっていません。はじめてお芝居をした頃と比べれば少しずつ分かってきましたが、それでもまだまだ。どうすればうまく役と手をつなげて、自分の力を発揮できるのか。今はまだ探り探りの段階なんです。
──宮岡監督とは『年下彼氏2』に続いて2度目のタッグになったわけですが、映画の現場ではどうでしたか?
ワンカットワンカットに一切の妥協がない。つねにベストを追い求める監督です。現場にかける情熱がすごいので、私自身もそれに乗って、気持ちを高めた状態で撮影に臨むことができていました。いつも私に寄り添ってくださいましたし、宮岡さんの作品だからこそ、エリカを演じることができたと思っています。
──完成した作品を観て、その実感に変化はありましたか。
完成品を観て、なおさらそう思います。編集や音響の力によって、よりエリカが狂気的に見える。撮影現場には撮影現場の演出があるのですが、こうやって撮影後にも演出がなされていくのだと感動しました。

──宮岡さんといえば、筋金入りのホラーやサスペンスのマニアでもありますよね。
これまで私が観てきたのは“胸キュン映画”みたいなものが大半だったのですが、『Erica -エリカ-』との出会いを機に、世界が広がりました。『Pearl パール』(2022年)や『ミザリー』(1990年)、『危険な情事』(1987年)など、宮岡さんからはいろいろと教えていただきました。
──いままで馴染みがなかったのに、なかなかハードなラインナップじゃないですか(笑)。
最初は目をつぶりながら観てました(笑)。「これは心臓が持たないかも……」と思いながら観はじめて、鑑賞後には息が上がっちゃうような作品たちです。でもこれをきっかけに、今まで観なかったジャンルも観るようになりました。今年の公開作だと『HELP/復讐島』がとっても面白かったし、今後はこの手の作品も積極的に観ていきたいです。
──そういえば林さんは、『Pearl パール』におけるミア・ゴスと同じく、『Erica -エリカ-』でタイトルロールを演じたわけですね。
そうなんです! これは私の人生において、大きな事件です! 映画のタイトルになっている役を演じることができたなんて、いまだにドキドキします。
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