2024年に宝塚歌劇団を退団後、数々のミュージカル作品で活躍中の星風まどか。モデル、俳優としての長いキャリアを持ちながら、近年は『MEAN GIRLS』『アメリカン・サイコ』などミュージカル作品への出演で存在感を示す石田ニコル。この二人が親友役として共演するのが、現在公演中の『マリー・キュリー』だ。

マリー・キュリーの生涯をフィクションを交えて描いた韓国創作ミュージカルの傑作であり、2023年に日本で初演。キャストを一新しての再演となり、ダブルキャストで星風はノーベル賞を受賞したことで知られる女性科学者、マリー・キュリーを、石田はマリーの親友であり、彼女に大きく影響を与えるアンヌ役を演じる。初共演の二人はどちらも「人見知り」というものの、今ではすっかり打ち解けた様子。インタビューでは、役さながらのコンビネーションで作品の魅力や互いの素顔を語ってくれた。

鈴木裕美さんは「演劇版マリー・キュリー」

_{──今回、お二人とも『マリー・キュリー』という作品には初出演ですよね。この作品の魅力は、どんなところにあると思いますか？}

星風　マリー・キュリーという人がどれだけ偉大で、何を成し遂げて、どういう状況の中で生きられたかという彼女の人生ももちろんですが、その裏や周りには、なくてはならない友人であったり、家族であったり、愛があふれていた。そういうところに、この作品の魅力がいっぱい詰まっているなと思いました。マリーという役は、私とは全然違う世界、違う人生なんですよね。ポーランド人であることで迫害されて、女性で科学者で、ノーベル賞を取るなんて、私とは全然違う次元の方なのに、それでもどこか共感できるところがあるんですよ。そこがこの作品の魅力だと思います。

石田　私は舞台を観に行くと、つい演者側として考えながら観てしまうんです。「どうして今この人はこう動いたんだろう」とか、これはもう職業病だと思うんですけど。でもこの『マリー・キュリー』の日本版を初めて観た時は、最初はいつものように演者側で観ていたのが、気がつくと観客側になっていて、ラストは自然とに涙が出てきて……帰り道では「いい舞台だったな」と思えた、そのことがずっと記憶に残ってたんです。誰かと舞台の話をしているときも、ポンとこの『マリー・キュリー』の名前が出てくるくらい。そんな想いがある作品だったので、今回出演させていただけるのはすごく楽しみにしていました。

_{──稽古はいかがでしたか？}

星風　稽古に入ってから、日々が過ぎるのがすごく早く感じたんです。というのも、稽古がとにかく“濃い”んです。一日一日がとても濃くて、気づいたら終わる、みたいな感じでしたね。 ‎

_{──どのように“濃い”んでしょう？}

星風　まずは台本や曲を自分なりに読み込んでから稽古場に行くんですけど、今度は演出の鈴木裕美さん（演出家）がいろいろな演技のビジョンを投げかけてくださるんです。その場で生まれるものプラス裕美さんからいただいたアドバイスや演技プランを実践していくんですけど、歌も難しいですし、やることも多い！ 稽古中は頭がパンク状態でした。「やらなきゃ、やらなきゃ」と思いながら毎日過ごしているので、帰ったらもうヘトヘトで、毎日一生懸命生きているという感じで。

石田　マリー役と違って、アンヌ役は出番がない時もあるので（笑）。でも、“濃さ”はとても感じます。今回の稽古は皆さん、各々の集中力がすごいから、グッと入り込む時間が長いというか。頭をいっぱい使って、見て、話を聞いて、考えるという時間がギュッとしている感じです。

_{──この『マリー・キュリー』の音楽は、魅力的ですが、技術的にかなり難易度が高いナンバーが多いですよね。}

星風　聴く分には最高です（笑）。私は日本版の初演は観られていないんですけど、一度韓国版を観たことがあるんです。言語はあまりわからないのに、曲を聴いていると泣いてしまうほどドラマチックで、本当に感動した記憶があります。実際に自分が聴いても歌っても素敵なのですが……これが頭がパンクした状態で歌うと難しすぎて！

_{──役によって難度の違いはあったりするんですか？}

‎星風　アンヌ役はキーが低い部分が多いですよね、また急に下がるんです。マリー役は急に上がるところが多い。でも聴いていただいたらわかると思うんですけど、すごい曲ばかりなんですよ。

石田　技巧的なところが入っていつつ、聴いたらキャッチーで心に刺さるナンバー。それらを両立しているのがすごいなと思うんですよね。だからこそ、歌う方はテクニックが求められるんですけど……。

_{──お二人とも鈴木裕美さんの演出は初めてですよね。実際に演出を受けた感想はどうですか？}

星風　すごく丁寧に説明していただけるなという印象と、あと本当にパワフル！ 誰よりもパワフルですよね。

石田　わかります、そうなんですよ。

星風　作品とか演劇、俳優に対する愛の大きさなんだろうな、と思うんですけど。私たちはダブルキャストなので、もう1組の稽古のときには休憩することもできたりするんですけど、それでもヘトヘトになるんです。でも演出の裕美さんは朝から晩まで毎日フル稼働で動いていて、その姿を見ると「疲れた」とは言えないな、と……でも何がびっくりって、裕美さん、そんな状況なのに基本は楽しそうなんですよ。

石田　そうなんですよ！ すごいですよね。裕美さん、ご自分でもおっしゃってましたよね、「演劇オタク」だって。毎日それを実感してます、本当に演劇が好きなんだな、と。あと「ワーッ」と喋る姿がすごく、この作品のマリーみたいで（笑）。

星風　そう（笑）。

石田　裕美さんが「演劇版マリー・キュリー」みたいな感じですね。その熱が稽古場のみんなに伝わっているのを実感します。

_{──今回はダブルキャストですが、それぞれの組み合わせが固定なんですよね。}

星風　そうです。稽古場で、何も考えずとも板の上に立ったら大親友でいてくれる……心を開いて「はいどうぞ」みたいな感じで受け止めてくれる石田さんのような方がいてくれるのは本当にありがたいです。今回、裕美さんがキャストをミックスせずに固定で分けた理由もそこにあるとおっしゃっていたんですけど、稽古に入ってからすごくそれがわかるんですよ。関係性がブレてしまうと、この作品は成り立たないだろうなと思いますし、この二人だからこその「アンヌとマリー」を蓄積して行く必要があるなと。

石田　私も固定でやるということになった時に「そうだよね」とすんなり思えたんです。せっかくダブルで固定なので、もちろんそれぞれ色は違うし、そこにもっと深みを出せないかなとか、そういう宝探しのような感じがすごく楽しいです。 ‎