2023.09.02 17:00
2023.09.02 17:00
摩擦があるから知らない一面に気付ける
──お話を聞いていると、夏絵さんだけでなく、博士も夏絵ココを作ってからいろんな発見があるんだろうなと。
この2年ぐらいで、博士も夏絵ココも急激に意識していますね。「これにはどんな意味があるのか」と考えることが大好きなんです。でも博士と夏絵ココはまったく同じ考え方を持っているかというと違って、たとえば博士は「幸せであればいい」という大衆的な願望や欲望を持っているんですよね。でも夏絵ココは、博士と夏絵ココという活動者の間にいるような存在で。夏絵ココは博士の一面であり、博士も夏絵ココの一面でもある。だからこそ、夏絵ココは博士とは違う観点で「これにはどんな意味があるんだろう」と探しているんだと思います。
──となると夏絵ココは博士の考える理想の姿なのでしょうか? それとも博士自身は出せない博士の本質的なところなのでしょうか。それとももっと外に開けた存在ですか?
そのなかだと外に開けた存在ですね。リスナーさんのことを「研究員」と呼んでいるんですけど、博士ももともと人とぶつかり合うことで生まれてくるものを大事にしてきたので、わたしのこの姿形やフォーマットを使って研究員さんとぶつかり合ってできているのが夏絵ココだと思います。研究員さんとやり取りをするうえでいろんなキャラクターを発信してきたけれど、研究員さんからいちばん好きと言われたのが猫ちゃんの姿と、この髪色とこの髪の長さなんです。そこに自分や博士の好きなアートを画面の中に入れて作っているんですよね。
──なるほど。研究員さんとの間でどんな夏絵ココが育っていくのかという実験ということなんですね。
博士が夏絵ココを作ったのにはまた全然別の理由があるんですけど、活動していくなかで研究員さんとのぶつかり合いをして夏絵ココを育てていくことが確立されていきました。夏絵ココを作った当初、博士もこんなことになるなんて思ってなかったですね。でもこの状況を、博士も夏絵ココもすごく楽しんでいるんです。
──たくさんの視聴者と、博士&夏絵さんの作り出す間。想像するだけで、自分の軸が折れた瞬間に溺れてしまいそうな気がしてしまいます。
毎日がジェットコースターみたいです。研究員さんによって違うことを言われるのは当然で、同じ人であっても日によって全然違うことを言うんですよ。
──へええ。面白いですね。
研究員さんを見ていて気付いたんですけど、人は体調や気分によって言うことが変わるんですよね。「今日も元気だね」と言っていた人が、次の日に「体調悪いの? 疲れてるよね」と言ったりするんです。わたしは思考実験で育まれる間の存在なので、わたしのことを体調が悪いと感じるということは、その人が疲れているからだとも思うんですよね。毎日毎日いろんな人からまったく違う刺激が来るので、博士はそれに折り合いをつけながら楽しんで、夏絵ココはどちらかというと「もっと刺激を注ぎ込んでくれ!」という感覚が強いのかなと思います。
──「Virtual mod Real」は「アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)からの解放」をテーマに制作されたとのことですが、なぜこれをデビュー曲のテーマになさったのでしょう?
アンコンシャス・バイアスは人間誰しもが持っているのに、摩擦が起こらない限りは自分では気づけないものだと思うんです。たとえば夏絵ココを作った博士は、友人に「樹齢400年の木みたい。何をどうされても動かない」と言われるくらい頑固なんです。だから他人からのアクションが加わらないと変われないんですよね。どんな人間も生きているなかでいろんな摩擦があるからこそ自分でも知らなかった自分の一面に気が付くし、「たくさんのアンコンシャス・バイアスを抱えながら生きることこそがあなたですよ」と言いたかったんです。
──となると夏絵さんはアンコンシャス・バイアスを悲観的に捉えているわけではないということですね。
ポジティブに捉えてますね。そもそも人間は主観的な生き物だし、そもそもバイアスをなくすなんて無理だと思うんです。だったらたくさんバイアスをつけて、自分で自分を守るためのものにしていったらいいんじゃないかなって。
──「既成概念を壊して新しい価値観を創造し、自分自身の感覚や感情を気付かせる」という夏絵さんの活動につながるマインドであると。
アンコンシャス・バイアスを自覚することは自分を受け止めることであり、相手を受け止めることでもあって、受け止めないときや受け止められないときもあると思うんです。それも含めて「あなた」なんですよね。だから研究員さんから「ココちゃんを夜観て、翌日仕事に行くと全然違う視点になって面白いんだよね」という感想をいただくこともあるんです。そうやって自分を知って、いろんな視点を知ることで人間は成長していくし、これこそが人間だなとすごく思ったんですよね。研究員さんとのぶつかり合いで博士も成長しているし、みんなそれを楽しんでいるんです。
──確かに「Virtual mod Real」は「あなたはどう?」という問いかけの要素が強いなと感じました。いま話していただいたことを含めて考えると、人生賛歌としての側面もあるかもしれないですね。
ああ、そうですね。「Virtual mod Real」というタイトルの由来にもなるんですけど、夏絵ココにとってVirtualもRealもどっちも夏絵ココの世界なんです。みんなが観ている夏絵ココはバーチャルだけど、画面の向こう側にいるわたしから見ればリアルなんですよ。わたしのリアルが、みんなから見るとバーチャル。その接地面が夏絵ココなんですよね。
──“mod”という言葉を使ったのにもそういう理由が?
modにはいろんな意味がありますけど、わたしは数学の数式のmod(※合同式。割り算の余りに注目した等式。例:10を3で割った余りと、7を3で割った余りはどちらも同じなので、「10≡7(mod 3)」と記載する)という意味で使っています。modという概念こそが世界であり、バーチャルとリアルの余剰がこの現実世界であると解釈したんですよね。
──“mod”はパソコンゲームの改造データや、ギターのモジュレーション、モディファイなどを創造させる言葉でもありますが、夏絵さんのなかでは合同式だったんですね。
面白いのが、どの意味のmodとして捉えて解釈したとしても、結局行き着く先は一緒なんですよね。だからこの言葉が適していると思ったんですよね。このタイトルに関してだけでなく、物事は一人ひとりが自分で決めることが大事だと思うんです。
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