2023.07.25 18:00
2023.07.25 18:00
作品の質で聴く母数を積み重ねたい
──それも実際に井上さんが歌うことによって音楽になると思うんですけど、井上さん的には、歌詞の感覚をどういうふうに捉えていますか?
井上 あー、難しいですね。「書きたい」に関しては今までで一番ロックっぽいというか、だるく歌おうと思って録ったというか。歌詞の意味がどうとかいうよりは、曲調に合わせて全体の雰囲気を見て歌うことが多いんです。歌詞そのものは「なんだこれ?」みたいな時はあるから聞いたりもしますけど、でもそれはいい意味での「なんだこれ?」で。詩的な表現として、聴いてる側が不可解になりすぎないけど分かりやすくはない部分というか。
──増幅させるところもだし、逆に抑制するアプローチもあるってことですね。聞き心地というか。
井上 そうですね、意味がはっきりとわかる歌詞の時は、そこは耳がいくように歌ってメリハリをつけているような気もしますね。「wake up call | 待つ夜、巡る朝」とかは、「僕たちに明日はない」っていう歌詞がサビ前にバンって出てくるんですけど、そういうのはスって耳に入ってくる言葉だと思うからちょっとはっきりめに歌って。聴いていただいて、そこで引っ掛かりを作れたらいいなというイメージでやってるかもしれないです。今言語化して初めて自分でも気が付きました(笑)。
──自分の言葉として聴こえるように届けているのか、もしくはその世界観の人物を降ろしてやっているっていう感覚なのか?
井上 どっちもありますね。曲によって、これは私として歌っても別に変じゃないなって時は自分の気持ちを込めて歌う時もあるし、これは完全に他人目線で歌ったほうがいいって思う時は淡々と歌う時もあるしっていう。でも本当に微妙な、気持ちのあり方の問題過ぎて。自分ではいけてるつもりでも、それがどう聴かれているのか、ちょっと自分だけではジャッジしづらいところではあるような気がします。
──皮肉な話で、音楽ってそういうものじゃないの分かりつつも言語化しないといけない仕事でもあるから……深く質問していくと、言語化して初めて「あ、そういえばそうだったんだ」っていうことが多いんですよね。今年出た『Sweet.ep』だと「書きたい」もそうだし、「sweet vertigo」っていう曲にもあると思うんですが、トレモロっぽい音の使い方が印象的です。
鈴木 子供の頃テレビのリモコンから鳴ってた音をすごく覚えてて、「sweet vertigo」っていう楽曲をもうちょっと印象付けるものがあればなっていう話をしてた時に、最後の一手で加わったものでした。そのちょっとしたSF感みたいなのが楽曲を印象付けるけど、あんまりフレーズっぽくないものを狙って出てきたんだと思います。
──この冬のEPに関しては、一番エレキギターが遊んでて歌ってて。でもその中に温かみのある井上さんの声が入ってて、バランス的にめっちゃ好きだなと思いました。
井上 私も冬すごい好きです。
──「灯火管制の夜」のギターソロではジャズにもロックにも属さなかった人たちがやってた80年代の現代音楽とか実験音楽のムーブメントなんか思い出したりして。ああいうフレーズって感情だけでバンっていけるんですか?
鈴木 手元で面白くしようとしすぎないっていうのが大事で、あとはサウンドのエフェクターとかで面白くすると、頑張ってない感じになるみたいな。ちょっと自然現象っぽくなるみたいなところがあって、そこは結構考えてますね。パッションではやってないです。
──音源にいろんなアイデアだったり実験精神が詰め込まれてるっていうのはよくわかったんですけど、ライブにおいてそこの再現性ってどのぐらい意識してます?
井上 私はかなり音源をイメージして歌ってますけど。それをしないとすごい離れちゃう気がするから、ちょうどいいぐらいなんですよね、たぶん。
鈴木 サポートが多くて3人ぐらいいるので、ギターパートはそれをうまく分散してやるみたいなのが多くて。音が重なりすぎてある程度別物でやらなきゃいけないなっていう曲は、ライブ用に組み直してますね。曲のコアの部分だけ変わらなければ伝わるし、音源とは違うのを求めてるファンの人もいるかなと思うので。
──じゃあどっちかっていうと生楽器のアンサンブルにこだわっていきたいというか?
鈴木 そうですね。
──さっきのギターソロもそうですけど、即興性とかも大事にしてそうな気がしたのが、意外とそうじゃないっていうところも聞けて嬉しかったです。バンドはここからどこ向かおうと思ってますか?
鈴木 先のことまで考えてるんですけど、それをやれるタイミングかどうかみたいなのがやっぱりあって。実は2ndの前から3rdアルバムのことが頭にあったんですけど、バンドの規模感とか出来ることとか、例えば浮かんだアイデアを金銭的な理由でシャットアウトしたくないみたいな思いがあるので、バンドを広く知ってもらって、足場を確実にしてから本当にやりたいことやれたらって思いますね。もうやりたいことやってるんだけどね(笑)。
井上 もっとやりたいことを実現するために、本当お金が必要で(笑)。
礒本 現実的にはね(笑)。
鈴木 だから今はEPの試みもそうですけど、バンドに興味を持ってくれる人の母数をしっかり作品の質で積み重ねていきたいです。
井上 今までもずっとそうやってきたんじゃないかと思ってるから、地道にこれからもそうやっていきたいと思います!
礒本 活動という意味では、これが今の自分たちだっていうのを固めていける時期になってくるかなと思っていて。今までいろんなタイプの作品を出して来たんですけど、音源的なところで言ったら、その中で自分たちの一番いいところを見せていけたらと思うし、ライブとかその他の活動でも、もっと自分たちが見せたい見せ方をしていきたいと思っています。まだ固まりきっていないんですけど、今まで聴いてくれてる人たちを大切にしつつ。
井上 シンプルに言うと、広く届いていけばいいなって思ってますね。私たちが真面目にやってることが日本に広く届いていったら、変わるものがあるような気がします。