2023.04.20 17:00
今回紹介するのは『九龍ジェネリックロマンス』。
このエッセイではお馴染みのタイトル推測から始めよう。
当初は表紙も相まってやはり中華風の世界観で繰り広げられる恋の話かなくらいだった。もちろんところがどっこいである。
主人公は眼鏡で大人しめで清潔感もあるがどこかすれた雰囲気と色香を漂わせる不動産勤めの女性鯨井。
そしてそこの同僚の男性でなぜか気になる存在の工藤。
そしてその舞台となる街が“九龍”なのだ。
まず先に言いたい。
この物語、絵で魅せてくれる。
鯨井の地味ながら漂うフェロモンや工藤の武骨な優しさはもちろんのこと、コマ割りやコマの使い方で表される感情の機微の間が好み、てか好き。
そしてそれが最大限に生かされる練られたストーリー展開。
素直に読み進めた最初の感想は、なるほどどこか懐かしい甘酸っぱい大人の恋の話、かと思いきや進めば進むほどふとした表情、ひとコマで見せる謎の間やハテナが随所に散りばめられ、その違和感が違和感なく混在しこちらの好奇心と探求心までも加速させてくれる。
もちろんやっぱり恋の話でもあるのよ。
そう、恋ではあるんだけど、どうしてもこの世界はなんなんだろうと想像や推理せざるを得ない物語構成でこちらも沢山のインプットの引き出しから自然と構えるのだが、こちらが肩肘張って推理してたものに仰々しい答え合わせはなくしばらく当たり前のようにすすんで提示してくれるので、すんなり喉元通って止まらない快感もあるのである。
さあ話を戻そう。
九龍はクーロンである。
そうクローンなのである。
この現最新最先端であろうクローン技術の世界観をこのノスタルジック全開の九龍の世界に落とし込んでるのですよ。
そしてジェネリックよ。
つながったよね。
クローンとジェネリック。
工藤は鯨井に時折みせる
何とも言えない間と顔。
皆いう。
九龍にはどこかなつかしさがあると。
そして説く。
九龍に恋してると。
ここまででひとまず1巻読んでみようと思ってくれたそこのあなた。
必ず2巻も読んでください。
そしてあなたがそれを読み終えたなら、また1巻読んでると思います。
1巻すべてがひっくり返るんです。
優しくて残酷な場所。
記憶がない過去の自分。
自分が育て同じようになった男。
温かい住人。
わけあり人間だらけ。
私じゃない私をみてる。
絶対の自分。
すべて九龍で起きてることなんです。
姿形が一緒なら同じ人なのか。何かのふりをするということで造りあげられるもの。外から形作るものと内から作るものとの違い。
なりたい自分になろうとする姿はウソじゃないし、そこに勇気づけられるとともに自分は何者なのだろうかと自問自答することでしょう。
なんだか小難しい風に捉えられたかもしれませんが安心してください。
もちろんロマンス。
鯨井さんや魅力的な登場人物達が色々と素直になっていく様が愛おしく微笑ましい抱きしめたくなるヒューマンドラマ、ファンタジー、ラブロマンス……うーんジャンルレス、そうそれが九龍ジェネリックロマンスなんです。
気軽に読んでください。
私が言ってたことがわかるはず。
そして気づけばあなたの手元には中華料理があるでしょう。
もちろんかく言う私もこれを書きながら食べてます。
しかしその中華料理、九龍ジェネリックロマンスのそれはそれは複雑で混沌とした幸せな甘酸っぱさと混ざって“化ける”かもね。