本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第8回 ヒグチアイ(後編)
ヒグチアイが目指すアーティスト像、寄り添う歌で立ち続けたい場所
2023.01.15 12:00
2023.01.15 12:00
数々のヒット曲を手がけた日本を代表する音楽プロデューサー、アレンジャーである本間昭光の対談連載「本間昭光のMUSIC HOSPITAL」。本間氏のプライベートスタジオを舞台に、ジャンル・スタイルを問わず現在活躍中の若手アーティストとの音楽談義をお届けします。
前回に続き、今回のゲストも性別問わず幅広い世代から支持を集めるシンガーソングライター・ヒグチアイ。約1年前にTVアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part2のエンディングテーマ「悪魔の子」で一躍その才能がフィーチャーされた彼女は今、ヒットを振り返り何を思うのか。取り巻く環境の変化やこれからの目標など、“アーティスト人生”についてディープなトークを繰り広げた前編に続き、後編でもリアルな本音を語ってもらった。
一生音楽からは離れられない(本間)
本間 でもヒグチさんがご自分のことをサブリーダー的存在だとおっしゃってるのを聞いて思い出した実体験があって。山に5人で登って、一人60代の方がいらっしゃったんですけど、登山って上りより下りがつらいから、うちのマネージャーがその方に寄り添って。僕らは先に降りて車とか手配して、2人は4時間遅れで到着したんです。
ヒグチ えー! すごいですね!
本間 その時間で2人の信頼関係はゆるぎないものになってますよね。だからサブリーダー的な感じで寄り添いながらって、もの凄い強い絆を皆さんとつなげられるんじゃないかなって思います。
ヒグチ 5人だったら3人は先に行くわけじゃないですか、だから寄り添うって大人数じゃできないんですよ。時間がかかって、ちょっとずつしか強固な関係になれないというか。
本間 ライブハウスっていう環境が、寄り添っていくのに一番いいと思うんですけど、これからキャパ広げるってなった時に、どういうMCやパフォーマンスがいいのか、どんな照明がベストなのかとか、会場が広くなると変わるじゃないですか。フェスでもまた変わるでしょ。だからまだどっちつかずなお客さんがどれだけ見ているか、都度都度アーティストは全部背負わなきゃいけないから大変だなと思いますね。「悪魔の子」(アニメ『進撃の巨人』The Final Season Part 2 エンディングテーマ)をリリースした後ってガラッとそういう層が増えたんじゃないですか?
ヒグチ 増えましたね。よく言われますもん。『進撃の巨人』のエンディングやってる人って。
本間 ヒットの裏返しにそういうのはついてくるものなので、僕も20年ぐらい前は「ミュージック・アワー」みたいな曲を書いてくださいって100回ぐらい来ましたから(笑)。
ヒグチ 100回ってすごいですね(笑)。
本間 同じようなのはできるけど、それだと意味ないじゃないですか。そこで反骨心出ちゃって、オーダーする方々の感覚に反応しちゃうんですよね。例えば「Bメロが好きなんです」とか、「ああいう展開があるものを」とか、ポイントで抑える力をどれだけ持っている方なのかっていう。そこまで深堀りしてきてくれる人がいると、こっちもいろいろ考えなきゃって思うこともあったんですけど。当時はチャートの上からなんとなくオーダーする人も少なからずいたので、ちょっと違うよなと思いながら。言われた通りに書いたりする人たちはどんどん職業色が強くなるんですよ。それも一つの生きる道というか。
ヒグチ いまだに違和感がありますか?
本間 ありますよ! でも顔には出さず、やることはやる。木崎賢治さんっていう大プロデューサーも、断ることが大切だと言ってました。「ありがとうございます。でも今自分がやりたいのはそこじゃないんです」「こういうことがやりたいと思ったときまた一緒にやりたいです」っていうのを、電話じゃなくて顔を見ながら話すようにしたんですって。なるべく自分も断るときは、理由を言うようにしてて。その仕事はなくなるし、嫌われるかもしれないんですけど、何年かしてまたやることがあるから。その時には一瞬離れることにはなっちゃうんですけど。一生音楽ってやるじゃないですか。
ヒグチ やれたらいいんですけどね。
本間 できますよ! 離れられないから。一生離れられないんだろうなって自分も思います。宮古島行ってもやるんだろうなって(笑)。
ヒグチ たしかに。想像できます!
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