加藤史帆、剛力彩芽、大窪人衛らハマり役の魅力も解説
伊野尾慧×森見登美彦作品の驚きの親和性!上田誠が巧みに舞台化した『四畳半神話大系』開幕
2026.05.21 21:20
2026.05.21 21:20
2026年5月17日(日)、東京・新国立劇場 中劇場にて、伊野尾慧主演の舞台『四畳半神話大系』が開幕した。原作は京都を作品の主な舞台とし、独自の語り口で日本の新しいファンタジーを切り拓く話題の作家・森見登美彦の同名小説。脚本・演出を手掛けるのは2010年にフジテレビ系の深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送されたアニメ版で脚本を担当したヨーロッパ企画の上田誠だ。
四畳半の部屋に住む冴えない大学生「私」は、薔薇色のキャンパスライフを夢見ながらも、悪友の小津に振り回される日々。テニスサークルに入ったものの小津のせいで孤立し、憧れの明石さんとも距離が縮まらない。1回生でのサークル選びの選択を後悔する「私」はある日占い師と出会い、もう一度サークル選択をやりなおすこととなる……というストーリー。

おそらく、最初に『四畳半神話大系』舞台化、主演・伊野尾慧というニュースを聞いた時、この原作小説やアニメを知っている誰もが、「あの作品をどうやって舞台化するんだろう?」と、「あの『私』をどう演じるのだろう……?」と2つのことを思ったのではないだろうか。実際前者の疑問がどうだったかは後述するとして、森見登美彦作品、特にこの『四畳半神話大系』を代表とする初期作品の主人公といえば冴えない、鬱屈とした大学生。しかし、ただ「うだつが上がらない」だけではない。性格がいいわけでもなく(というか「悪い」)、自意識は肥大していて、妄想癖があり、詭弁……屁理屈を並べ立てる。まあ一言で言うと、とんでもなく「面倒くさい」キャラクターだ。
では、伊野尾慧が演じた「私」はどうだったか? 暗転が解け、舞台上に現れる四畳半。その中にいる「私」。劇場空間に、高らかに響く第一声。
「四畳半から世界へ告ぐ!」
この声を聞いた瞬間、事前に考えていたことはまったくの杞憂だったことに気付かされる。そこにいたのは、それほど見事な「私」だった。キラキラのアイドルではない、とにかく厄介な大学生男子がそこには居た。ただ、彼自身の持つ抜群のチャーミングさが、観客にこの主人公への親近感をギリギリのラインで保つことに成功している。それほどまでに今回の彼は、森見登美彦世界の登場人物としてそこにいる。

脚本・演出の上田誠が記者会見で「主演の伊野尾さんはやることが多すぎて、どこかで怒られるんじゃないかと思って、結構ドキドキした」と語っていたが、実際の舞台を観ると納得しかない。俳優にとって、相当負荷が高い役であることは確かだろう。原作小説が主人公の一人称視点ということもあるが、この「私」、とにかく喋る。滔々と喋る。その膨大なセリフ量たるや!
しかし驚かされるのが、伊野尾の口跡の良さとセリフの聞きやすさ。2024年に久々の舞台出演となった伊野尾だが、こんなにも舞台、そしてこういう役柄との親和性が高いとは、驚く人が多いのではないだろうか。
他にも魅力的なキャストが揃った。ヒロイン的な役割でもある「明石さん」を演じたのは、元日向坂46の加藤史帆。初期森見登美彦作品におけるミューズといえば「黒髪の乙女」といわれる黒髪ボブカットの女子学生で、この『四畳半神話大系』の明石さんもその系譜。アニメ版のビジュアルを踏襲しつつ、少し硬質な佇まいと、ビジュアルのキュートさがとてもこの役に似合っている。卒業後、本格的な舞台は今作が初めてということで、今後の活躍が楽しみだ。

酒豪であり、「私」や周囲の人物たちを明るく翻弄する歯科衛生士「羽貫さん」を演じたのは近年舞台作品でも活躍が多い剛力彩芽。彼女の持つ持ち前の明るさと、「きれいなお姉さん」的なビジュアルがぴったりとハマっているし、舞台を華やかにしてくれている。ダンスシーンにも注目だ。

ラーメン店「猫ラーメン」店主と、学内で暗躍する「相島先輩」を演じるのはお笑いコンビ「しずる」の2人。もともとコントで見せる演技力には定評がある2人だが、またテレビや普段のステージとは全く違う魅力を見せてくれている。「私」と同じアパートに住む「樋口師匠」役の石田剛太、「私」の“分身”ともいえる「ジョニー」役等を演じた酒井善史、新興宗教の導師役を演じた諏訪雅の3人は、上田誠率いるヨーロッパ企画のメンバー。盤石の安定感で、しっかりと今作の劇世界を支えている。占い師を演じた町田マリーのコミカルで年齢不詳な感じもいい。
次のページ
