特別対談「日比谷音楽祭が目指す音楽の新しい循環」 #1
“感動体験”を原点に、亀田誠治×小山田壮平が考える仕事を超えた音楽の魅力
2023.10.02 17:30
2023.10.02 17:30
みんな音楽業界に来て働いて欲しい(亀田)
──今のお話から繋げていくのですが、若い世代に音楽をやっていく上で何かこういう考え方もあるよ、などのメッセージやアドバイスがあればお願いします。
小山田 僕はコロナ禍で可哀想だなと思ったのが、大学生の子たちが旅行に行けない、旅に行くチャンスなのに行けなかったりっていうので。今だいぶ行けるようになってきてますけど、行きたいところに行ってみると音楽の聴こえ方がすごく変わりませんか?
亀田 うんうん。
小山田 自分は最初インドに行ったんですけど、そこで鳴ってる音楽だったり街で普通にかかってる音楽が、同じように通じるものもあるんだけど、宗教音楽だったりして、ちょっと仕組みや土台が違うようなところから出てきてる音楽も流れていて、でもすごく自分に響いてくるものだったり、そういう音楽体験があるんですね。だからチャンスがあれば旅へ出てください。
──バックボーンの違う人たちの音楽が響いたことが、自分の助けになってたりするんですか?
小山田 どうなんですかね? やっぱりずっと同じ場所に行ってこう同じコミュニティの中でやってると、お互いが窮屈になってくる部分だったり、そういうのが「全く違う世界があるんだな」っていうことを体感したことで分かった気がしていて。自分のコミュニティも大好きなんですけど、新しい音楽もどんどん作っていきたいし、作って行ってもらいたいから、そういう意味でも自分の聴いたことない音とか、そんなものをどんどん取り込んでほしいなあっていうふうに思いますし、それが楽しいんじゃないかなって思います。
亀田 いい話。僕はあのちょっと現実的な話をすると、ぜひみんな音楽業界に来て働いて欲しいと思いますね。これ音楽業界だけじゃないと思うんですけど、本当に人手が足りなくて。世の流れで行くと、いわゆる生成AIとか、人の代わりになるものがいろんなクリエイトの部分をサポートしてくれる時代が確かに来てはいるんですけれど、それ以上に人と人が時間をかけて成長し合ったりとか、誰かが失敗しちゃって、一回うまくいかなかったけど次にみんなで成功を目指していくとか。なんか“クリエイティブ”って言うと創作のことばっかりだと思うかもしれないけど、いろんなプロフェッショナル、音響さんエンジニアさんや照明さん、いろんな人たちがライブを作るにしても、その人たちが長年積み上げてきた腕とか、自分が悔しくて泣いた思い出とかが混じり合って人の心を動かして行くものを作っていると思うんですよ。
なのでそれは若い人にぜひ体験してもらいたくて。そこでさっきも小山田さんが言ったみたいに、やっぱり体験、まずは音楽業界の何かの仕事を体験してみて「これは面白い」っていうふうに思ったらぜひ続けてみて、感動体験から生まれてくる、感動体験に育てられた、そんな人肌のあるプロフェッショナルの人に増えてもらいたいなあっていうふうに思いました。
──日比谷音楽祭が掲げるポリシーを次の100年に残して行くために、どういうことを大切にしていけば良いと思われますか?
亀田 まずは野音が来年の途中までしか使えなくて、もう今年の秋から日比谷公園もリニューアルの工事を始めて、場所場所で区切って10年間かかるそうなんですけど、これ“10年”って聞くとみんな肩を落とすというか、「長いね……」ってイメージを持つんですが、僕、ニューヨーク市長のブログをメルマガで登録してるんですね。で、ニューヨークにここ10年間ぐらい歩道に鉄骨の足場がついて、ずっと歩道の修繕をしてたの。それずいぶん前からやってていつ終わるんだろう?と思っていたんだけど、「それが取れましたよ!」っていう市長からの……僕宛てじゃないですけど(笑)、メールが届いて。「いつまでやってんだろう?」と思うものもやがては、取れる時が来るんだっていうふうに思ったんですね。
そういうことを考えると10年って、例えば僕は僕、日比谷音楽祭は日比谷音楽祭、小山田さんは小山田さんで自分たちのやることをコツコツやっていたらば、意外とすぐそこっていうものなんじゃないのかなっていうふうに思って。100年後には間違いなく僕は生きていないので、100年後に繋げていくにはやっぱりこの音楽祭のフィロソフィーというか哲学が大切で。きっと出てくださったアーティストはみんなそれを感じて、「あ、これはいいフェスだ」と思ったでしょ?
小山田 はい、思いましたね。
亀田 ははは。言わしちゃったけど(笑)。この気持ちを途絶えさせることなく、数を重ねていくと、きっと時代時代のうねりの中で形は変えていくんだろうけれども、10年間公園が工事してるからとか、野音が改修工事で2〜3年使えないからっていうことがダメージではなくて、次へのプラスの材料になるんじゃないかなっていうふうに考えてます。
──小山田さんは出演者だったわけですけど、どうですか日比谷音楽祭の今後について思うところはありますか。
小山田 そうですね。初夏の風物詩、東京の風物詩になっていってほしいなあと思いますね。