2023.06.29 17:30
今回ご紹介するタイトルは『島さん』。
舞台は何の変哲もない平穏な街のコンビニ。
そしてそこで働く何の変哲もないおじいさんの物語……な、わけもなく、この優しそうなおじいさんにはある秘密がある。
もうお分かりであろう、このおじいさんの名前が島さん。
島さんは基本的に働く時間帯は夜勤で、ヘルプとしても他店によく出向くベテランコンビニ店員。しかしその経験値とは裏腹に仕事ぶりはとても機敏と言えるものではなく、ひと際腰も低いせいか若い店員達に足手まとい認定されることもしばしば。
田舎の夜にぽつんと輝き安心感を倍増させてくれる夜間のコンビニ。そりゃ人も集まりますよね。
かくいう私も20代前半の頃は光に集まる虫のごとくバイト終わりに友達と集まっては夜明けまで飲み明かしたりしておりました。
コロナを経て都会でもそんな光景が見られるようになったのでその度にノスタルジックな思いと、イートインというシステムに少なからず貢献出来たのではないかという勘違い甚だしい過信、田舎ながらも治安悪そうに見えるシチュエーションにも一役買ってたなと反省もします。
もちろん島さん働くコンビニ「ベターデイズ」にも様々な人が働き様々な人々が買い物に来るわけです。
店員側も若さ故、いや人間故に気が大きく横柄になることもあります。そしてお客様は神様だろを盾にとった消費者も少なからずいるわけです。
みんな頑張って生きている人間だもの、その日の気分やストレスもありますわね。
そんな人達が組み合わされば起きるもの。軋轢。トラブル。これらをすべてなぜか解決出来る男、みんないつの間にか少し反省し前向きにさせる男、時には言葉で語り、時に背中で語る男、そしてその優しく気弱ながらイメージとは裏腹に、まさしく裏腹の背中にはなぜか刺青もあり、それが時として更に語ってしまう存在、そう、島さんなのである。
島さんのそのただ四の五の言わず心地よく過ごしてもらいたいという最高の接客、幼少期からの人生経験がにじみ出る粋な優しさ、何より筋が通っているのである。
そしてこのコンビニの内情がとてもリアル。
コンビニで起きる数々の人間模様と事件が唸るほどにこと細かなので没入感が段違い。そしてヒューマンドラマとしても繊細で静かに心打つ一因はどうやら作者である川野ようぶんどう先生の経験値が多分に詰まってるいるようで。
本編はもちろんあとがき等も読んでもらえればわかりますが、ここに行き着くまでの人生の物語でもあるんだなと。ここをドラマに出来るのは島さんと同じくある種の筋モンです。
コンビニというなんでも売っている場所で何物にも代え難い心といつでも帰って来れるセカンドホームを提供してくれる。
人と人のつながりの薄れてきた昨今、改めて人は他人との関わりなしに生きていけないものなのであり、普遍的な人間の良心をも教えてくれる。展開は決して派手ではないかもしれないが、『島さん』はお弁当のみならずじわっと心も温めてくれ、少しでも誰かに何かを与えられてるのかもという気持ちで、きっと私たちは今日も少し前向きに“働ける”。