本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第10回 小林柊矢(後編)
小林柊矢の音楽美学、今こそ必要な“ひとりじゃない”空間
2023.03.04 17:00
2023.03.04 17:00
日本を代表する音楽プロデューサー、アレンジャーである本間昭光と現代のセルフプロデュースに長けた若手アーティストとの対談をお送りする「本間昭光のMUSIC HOSPITAL」。
前回に続き21歳のシンガーソングライター小林柊矢を迎え、リリースされたばかりの1stフルアルバム『柊』を聴きながら行われた今回の対談。後編では9曲目「ふたつの影」から、自身でその制作過程や楽曲に込めた想いを振り返ってもらった。揺るがない芯がありながらも柔軟性を併せ持つ小林が、アルバムと来たるワンマンライブを通じてリスナーに伝えたいメッセージとは。
本間 1stアルバムを出してライブで人をつかまえることが、大事な時代だと思うんですよ。ストリーミングじゃなくて。“ついていきたい”と“支えたい”とか。同じくらいの10代の子たちからは憧れの存在として、同じ世代には一緒になってこの苦しい時代を乗り切ろうぜって、伝えられるのはライブしかないと思うんです。
小林 そうですね。特にワンマンライブは自分を求めて来てくれるけど、対バンとかフェスとかでは流されたくないです。今流れてる、本間さんが編曲してくれた「ふたつの影」は、母親と祖母に聴かせたら泣いてくれました。号泣で。
本間 これだってお母さんに気持ちが伝わったんだね。
小林 この時期って新生活が待ってる人が多いだろうし、大切な人との別れだったり、死別だったり。僕もペットを4匹飼ってたんですけど、最近全員亡くなっちゃったんですよ。当たり前だったのに、いない生活がまた当たり前に戻っちゃうのかなっていう。別れと同じで出会いもあるし、そういうことに重ねられる曲になったのかなって思います。
本間 アルバム曲のバランス感でアレンジしたところがあって。ちょうどいい位置に置いてもらったのでよかったかなと思います。全部シングルのパワーでアレンジしちゃうとバランス取れなくなってくるから。
小林 本間さんにやっていただいた3曲ってそれぞれ色が違うので、アルバムを見据えてアレンジしてくれたんだなあって伝わりました。
本間 やっぱりCDで聴いてほしいよね。
小林 CDどころか、レコード出したいなと。
本間 レコード収まる?(笑)
小林 そっか(笑)。今後またアルバム出すってなっても、必ず盤を作りたくて。
本間 「死ぬまで君を知ろう」はスタンダードに忠実にやってるね。
小林 タイトルがすごいんですよ。壮大に見えて、でも、か弱い男の子のちょっとした空想というか。隣で寝てる彼女を見て、グッと心の中で思ってまだ言えないみたいなシチュエーションで、そんなこと言えたらいいなっていう。ロングトーンを意識した曲で、サビが開けるんですよ。
本間 転調が自然だね。
小林 展開がすごくおもしろくて。Dメロに行ってBメロに戻るんですよ。で、Aメロを最後に持ってきたんですよね。
本間 書きたいことが溢れちゃうから長くなっちゃうのかな。
小林 (笑)。出てこない時は出てこないですけど。出てくる時はどう削るかっていうのを悩む時もあります。
本間 削る美学っていうのがね。今はリスナーみんなが飽きっぽいから、長いと飛ばしちゃうよね。
小林 それ本当嫌なんですよね。TikTokとかも10数秒出して。結局はその部分が流行っちゃいますもんね。
本間 避けて通れない道なんだけど、そこばっかり見てもしょうがない。芯があれば各々好きな箇所を切り取られるから。
小林 そうです、昔の曲ってすべてがサビなんですよ。どこを切り取ってもいいんですよ。この曲はそれを意識したんです。次の「名残熱」もトオミさんですね。
本間 トオミくん、年間何曲ぐらいアレンジしてるんだろうね。僕も20年ぐらい前は多くて年間80〜90とか、大変だったよ。だけど楽しいからやっちゃうけど。
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