フジロックにも出演する世界のトップランナーが旧友に語る
ルイス・コールにとって“良い音楽”とは?新作から辿る音楽遍歴と制作哲学
2023.02.03 12:30
2023.02.03 12:30
『Quality Over Opinion』が意味するもの
──ミュージシャンとしてだけではなくて、リリシスト/詩人としてもルイスをリスペクトしているんだよね。私はラッパーだからそこにも注目したい。
君はめっちゃリリックを研究する人だもんね。嬉しいよ。
──その上でアルバムのコンセプトとかについても聞きたいんだけど、そもそも『Quality Over Opinion(意見よりもクオリティ)』ってどういう意味?
全てのことに言えると思うんだけど、音楽があまりにも個人的な意見や感想をベースに消費されていることに疑問を感じるときがある。例えばスポーツとか食べ物って「うまいかどうか/良いかどうか」が評価軸の大部分を占めている。「マイケル・ジョーダンは、あの選手よりも上手いし良い成績を残している」みたいに。もちろん意見や個人の感想が入る余地はあるけど。
音楽では、本当に細部まで気にかけられていて、魂を注ぎ込んだような作品が得るべき成功を得ないことも多い。逆に単に話題になるだけの音楽が成功することも多い。それで一般的な音楽の「良い/悪い」という意見に対して疑問を感じることがある。なぜならやはり音楽のクオリティというものには、ある程度の尺度と基準があると思う。音楽への評価は全て個人の主観だって言う人もいるけど、音楽のレベルを定義づけられるクオリティの基準というものはあると思うんだ。「この音楽は実際に良いのか?」ってね。
世の中には全く心が入ってなく音楽に対する熱意のないような意見が飛び交ってて、そういう意見は声が大きいから多くの人に届く。だからたまにそれがウザいと思うときもあるし、音楽のクオリティにフォーカスしてほしいと思うときもある。でも全員が音楽に対して熱心なわけじゃないし、そういうものなんだろうけど。
──なるほど。それで言うと、そもそも私は音楽レビューというものが好きじゃなくて。例えばリスナーが「この作品好きだな」と思っても、レビューとかで酷評されていたら、その作品に対する意見が変わる人も多いと思う。そういう人たちは自分の音楽のテイストに自信がないからなのかもしれないけど、レビューや意見にはある程度の責任が伴うものだと思う。
それは確実にあると思うな。レビューやコメントというものは、他人の意見を揺らすことができる。僕が知らないだけで、人間の心理はそうなっているんじゃないかな。例えばネガティブなコメントを見たら、それを忘れることはできない。だからレビューやコメントを読んでからアルバムを聴いたとしても、フィルターがかかっていてピュアな状態で聴けなかったりする。
──だからこのSNSの時代では、昔のような圧倒的なスーパースターが出てこないのかもって思った。昔はそういう個人的な意見や感想というものはあまり目に入らず、メディアによってコントロールされていたけど、今ではSNSでみんなが「このアーティストはクソ」みたいなこと書いてるから、好きなアーティストに対しても「もしかしたらこのアーティストは良くないのかも」って気持ちになる人もいるだろう。だからマイケル・ジャクソンやプリンスのような圧倒的な存在はこの時代には出てこないようにも思える。
今までそれを考えたことなかったけど、確かにそうかもしれないな。僕もそういうコメントをされることもあるよ。「くだらない曲だ」とかね(笑)。
──でもルイスはあまりにも唯一無二だから、「もしルイスをクソだと思うならば、クソなのはあなただ」って言えるレベルまできているようにも思える。単にあなたが理解できないだけって。
そのセリフいいね! サイトに載せたい(笑)。「もしルイスをクソだと思うならば、クソなのはあなただ by Kaz Skellington」って(笑)。
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