映画『沖晴くんの涙を殺して』で心が動いた互いの芝居とは
ダメさも弱さも、さらけ出した先に今がある。広瀬アリス×木戸大聖が明かすそれぞれの恩人
2026.10.15 18:00
2026.10.15 18:00
誰かとの出会いが、絶望の底にいた自分を救ってくれることがある。『沖晴くんの涙を殺して』は、そんな救いとなるような出会いを描いた映画だ。
末期の乳がんを患う余命1年の音楽教師・踊場京香。津波により家族を亡くし、喜び以外の感情も失った高校生・志津川沖晴。美しい瀬戸内海の島で出会った二人は、やがて恋愛とも友情ともつかない絆で結ばれ、互いの存在に救いを見出していく。
演じた広瀬アリスと木戸大聖にも、“自分を救ってくれた誰か”はいただろうか。まるで仲の良い姉と弟のような二人の対談をお届けする。

こんな綺麗に涙を流す役者さんはいないです
──お二人ともそれぞれ難しい役でしたが、どういうところを大事にして演じようと思ったのか、役へのアプローチをまずお聞かせください。
広瀬 脚本を読んだときに、生と死を描いたお話ではあるけれど、重くないストーリーだなと思ったんです。この重くない感じをお芝居でも出したいと思って、京香があまりにも不幸な女の子にならないように気をつけました。監督も「悲劇のヒロインになってほしくない」とおっしゃっていて。現場でも「今の表情は一瞬ちょっと悲しく見えた」というような指摘を受けることが何度かありました。
木戸 沖晴は喜び以外の感情を失った人。失った感情について、沖晴は「死神に奪われた」というふうに表現しています。つまり、もとから感情を持ち合わせていないわけではなく、蓋をされているような感じで、表出の仕方がわからなくなっているのかなと。根っこにちゃんと感情はずっと残っているんだというふうに僕は捉えていて。それが京香と出会って、温もりを感じて、ふれ合っていくことで、少しずつ蓋がずれていく。そういうイメージを頭の中で思い描きながらアプローチしていきました。
──今回共演してみて、お互いのお芝居のどんなところに心を動かされたか、お二人で振り返っていただけますか。
広瀬 喜びしか感情を持っていなかった沖晴くんが、お話が進んでいく中で感情を爆発させるシーンがあるんですけど、そこはほぼカットを割らなかったよね。
木戸 そうだね。
広瀬 もう一気にいきましょうみたいな感じで。だから、私も一緒に泣きそうになったり、一緒に感情を爆発させられかけたり、沖晴くんに引っ張られそうになることが何度もあって。京香としてはちゃんといなきゃいけないから必死でこらえるんだけど、あのライブ感は「生ものをやってる!」って感じがして、いい刺激を受けました。あと、なんと言っても、涙が綺麗!
木戸 ありがとうございます(笑)。
広瀬 こんな綺麗に涙を流す役者さんはいないですよ。もうベテラン女優さんかのようにスーッと一筋の涙を流すんです。そこはぜひ見てほしい!

木戸 僕が覚えているのは、沖晴くんが怒りの感情を取り戻すシーンがあって。目の前の京香に向けて怒りを爆発させるんですけど、取り乱す沖晴を前にしても京香は焦る素振りを一切見せず、「ご飯食べよ。お腹が空くとイライラするから」と声をかけるんです。そのときの京香から優しさがにじみ出ていて。あの広瀬さんの包容力に救われましたね。
広瀬 母性です、母性(笑)。
木戸 ちょうどそのあとの食事のシーンで言ってるもんね、「お母さん」って。
広瀬 意外と人間って自然と母性が出てくるもんだなと思った。
木戸 出てました、母性。
広瀬 手のかかる子なんだから、沖晴くんは(笑)。
木戸 あの京香は、先生を超えて、本当に母親みたいだった。あのとき、沖晴も思ったんだと思います、この人の隣にいたいって。そう思えたのは、広瀬さんが京香を演じてくれたからです。

──それこそ京香は自分も重い病気を抱えていっぱいいっぱいなわけじゃないですか。そんな中、どうしてあんなふうに母性的でいられたんだと思いますか。
広瀬 沖晴くんが踊場京香がいてよかったなと思っているように、京香にとっても沖晴くんがいなかったらもっと人生どん底だった気がするんです。死ぬことに対して重く捉えて、苦しんだりあがいたりしていた気がして。だけど、死に対して淡々と話す沖晴くんを見て、京香自身も同じあがくのであれば、残りの人生をどうやって生きるかに気持ちを持っていけた。あの二人はお互い求め合っていたし、お互いに救われていたんだと思います。
次のページ
