映画『私はあなたを知らない、』で出会った二人が表現を語る
「感動は、構造ではなく人から生まれる」中野量太監督×早瀬憩が選んだ愛の描き方
2026.08.31 18:00
2026.08.31 18:00
『湯を沸かすほどの熱い愛』で深い母の愛を描き、大きな感動を呼んだ中野量太。以降、『長いお別れ』『浅田家!』『兄を持ち運べるサイズに』と家族映画を描き続けてきた名手が、『湯を沸かすほどの熱い愛』以来、10年ぶりとなる完全オリジナル作品に挑む。それが、8月28日公開の映画『私はあなたを知らない、』だ。
天涯孤独の青年・西山夕平は、かつて交際していた女性を殺めてしまう。男は罪を認め、服役。それから13年の時が流れ、その女性の娘・朝子は、記憶から消えていた夕平の存在を祖母から知らされる。事件の真相を確かめるため、朝子は服役中の夕平を訪ねる。なぜ夕平は愛した女性を手にかけたのか。これは、愛と赦しをテーマとした感動のヒューマンサスペンスだ。
朝子を演じるのは、『違国日記』で大きな注目を集めた早瀬憩。二人に出会いから撮影の日々を振り返ってもらった。

役づくりとして原田美枝子さんにお手紙を書きました
──今回、早瀬さんはオーディションを経ての起用だそうですね。
中野 オーディションでは、夕平との面会のシーンをやってもらいました。ここができないと朝子という役は演じられないと思っていましたが、早瀬さんが素晴らしかったのは、朝子はどういう人間なのかを短い時間の中で一生懸命掴もうとしていたところです。僕にとっても、朝子は大切な役。信頼できる方でないと託せない。早瀬さんの真摯な姿勢を見て、早瀬憩という役者さんになら朝子を任せられると思いました。
早瀬 うれしいです。オーディションなので最初は私も緊張していたんですけど、監督が愛情深く物腰の柔らかい方だったので、自然と緊張がほどけたというか。オーディションの最中も常に同じ目線に立って演出をつけてくださるので、私もまっすぐ朝子と向き合うことができました。何より監督の作品に懸ける熱意が、かけてくださる言葉の端々から伝わってきて。その気持ちに応えたいという一心でしたし、オーディションを受けながらどんどん私の中でも監督とご一緒したいという気持ちが膨らんでいきました。

中野 オーディションでお渡ししたのは、台本の一部を抜粋したものなんですね。それに僕から「朝子は今こういう状況で……」と説明しながらやってもらったんですけど、まあ難しいですよね(笑)。
早瀬 限られた情報の中でどれだけ朝子の心境を自分に落とし込めるかの勝負でした(笑)。だから、監督からいただく言葉が私にとっては役を掴む一番の手がかりになっていました。
中野 あのとき、なんて言ったんだっけ?
早瀬 面会のシーンの他に、弁護士の町村さんとのシーンもやったんですけど、もっと誘惑じゃないですけど、そういう感じの雰囲気を出してみてとおっしゃったのが印象的でした。
中野 思い出した。「小悪魔的な感じで」って言ったんだ。そんな朝子を見て、町村が戸惑う感じにしたくて。
早瀬 私はとにかく監督が頭の中で思い描いている朝子にどれだけ近づけるかということを考えていました。
中野 そこで言うと、早瀬さんは僕のイメージしている世界の中にぽんっと入ってきてもまったく違和感がない役者さんだなと思いました。もともと出演作を拝見していたので存じ上げていたんですけど、僕の観た作品でも自然とその世界に溶け込んでいて。僕はそういう役者さんが好きなので、そこも強く惹かれた理由の一つです。

早瀬 オーディションが終わってからも、結果が出るのをまだかまだかとずっとソワソワしていたので、ご連絡をいただいたときは安心しました。と同時に、監督にとって大切な作品の核となる役を引き受けるわけなので、ちゃんと演じ切らなきゃなっていう責任感とプレッシャーが湧いてきたのを覚えています。
──クランクインまでのやりとりで特に印象的だったことはありますか。
早瀬 監督から「祖母役の原田(美枝子)さんに手紙を書いてみたら」とご提案をいただいて。それで、本当にお手紙を書いてみたんですけど、今までやったことのない試みだったので、すごく印象に残っています。
中野 両親を亡くした朝子をここまで育て上げてきたのは、おばあちゃん。その感謝の気持ちを書いてみることで、ここまで朝子がどんなふうに生きてきたか想像できると思ったんですよね。
早瀬 すごくありがたかったです。書くことで、祖母から何を受け取ってきたのかが鮮明になりましたし、この祖母に育てられたんだということを自分自身が改めて認識するいい機会になりました。
──物語の前半は、倉田瑛茉さん演じる幼少期の朝子がメインとなります。これらのシーンについて、早瀬さんは現場に見に行ったりしましたか。それともあえて見ないでおこうと考えましたか。
早瀬 現場まで見に行きました。というのも、劇中、黄色い風船を持って抱っこされている女の子とすれ違ったときに、朝子の中でふと何かを思い出す感覚がよぎるシーンがあって。はっきり記憶に残っているわけではないけれど、朝子の人生の大事な一部。ちゃんとこの目に焼きつけておきたいなと思って、現場を見学させてもらいました。
中野 監督としてはめっちゃうれしかったですよ。「お、来たな」と。「ロケ弁を食べに来たな」と(笑)。
早瀬 違います!(笑) まあ、お弁当はちゃっかりいただきましたけど(笑)。現場で拝見していても、瑛茉ちゃんがすごく幸せそうだったんですね。こんなふうに愛された過去があったんだと思うと、私までうれしくなりました。
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