2024.04.08 17:00
2024.04.08 17:00
会見ではミュージカル化が決まった経緯も
2曲目は第二幕第四場「裏切りの人生」。こちらはかなり長いシークエンス。このナンバーではなぜグレイがシアター・ゴーストになったのか、それまで語られなかった彼の過去が明らかになる。物語全体を通してかなり重要なシーンと言っていいだろう。
時計は巻き戻され、ゴーストになる前のグレイがロンドンの街に立ち誰かを待っている。そこに現れた女性の名はシャーロット。彼女は演劇に魅せられたグレイが通い詰めるドルーリー・レーン劇場に出演している女優だ。恋に落ちたふたりはパブでジンを飲みベッドを共にするが、じつはシャーロットには貴族のパトロンがいた。グレイは駆け落ちして一緒に暮らそうと彼女に乞い、シャーロットもそれを了承するのだが、約束の日、待ち合わせの場所にやってきたのは決闘士のデオン・ド・ボーモン。シャーロットは貴族との生活を選びグレイを裏切ったのだ。そこでグレイはデオン・ド・ボーモンの剣にあえなく倒れ、命を失う。そしてその悲しい思い出が紡がれるさまをじっと見つめているフロー。
シーン前半はグレイの恋と高いテンションを象徴するような歌と音楽に彩られ、アンサンブルによるラインダンスなどとも相まって非常に華やかな印象。が、シャーロットの裏切りとデオン・ド・ボーモンの出現、そこからの決闘、グレイの死と場の空気は途中でダークに変容する。
このシーンもグレイ役は金本泰潤が務め、フロー役は真瀬はるかが担当。グレイが幸せから絶望に叩き落されるまでの金本の歌と演技に胸打たれながら、デオン・ド・ボーモン役として登場した岡村美南の低音ボイスと幽玄的な存在感にも心を持っていかれた。ちなみに原作漫画でもデオンは「男とも女とも知れない美貌の剣士」と称されている。
2曲目終了後に特に大きなノートはなかったようで、シュワルツ氏が俳優それぞれに賞賛の言葉をかけたところでいよいよオーラス、3曲目だ。
3曲目に披露されたのは第一幕第八場「不思議な絆」。一幕のラストにフローとグレイにより歌われるデュエットで、このシーンはフロー役を谷原志音、グレイ役を萩原隆匡が担った。
フローが“絶望”したその時に彼女の命を取るという奇妙な約束のもと、ともに行動してきたふたりに芽生えた不思議な絆。フローとグレイは野戦病院の外で異なる場所に立ちそれぞれの想いを歌で語る。と、ふたりの気持ちがいつしか重なり、その距離が次第に近づいていくというシーンである。ここでのグレイはそれまでの斜に構えた様子でなく、胸に起きた気持ちの変化を噛み締めながら自らと対話しているようだった。
この日、公開稽古で『ゴースト&レディ』3つの場面を見学し、俳優によるナレーションがその場で挿入されるシーンや、登場人物がセットチェンジを担う箇所など、同じくシュワルツ氏が手掛けた『ノートルダムの鐘』とどこか重なる演出技法を用いているとの印象も持った。また、先に挙げたフロー役、グレイ役の出演候補者たちがそれぞれの個性を自然に醸す姿にも注目したい。ここに手練れのベテラン勢やアンサンブル陣が入ることでさらに鮮やかな化学反応が生まれるのだろう。
公開稽古の後は場を移し、劇団四季代表取締役社長・吉田智誉樹氏、演出のスコット・シュワルツ氏、フロー役候補の谷原志音、真瀬はるか、グレイ役候補、金本泰潤、萩原隆匡登壇による取材会が行われ、吉田社長より四季が海外作品だけに頼らずオリジナルミュージカルを創作することの重要性や出演候補者たちによる意気込みが語られた。
またシュワルツ氏によると、ミュージカル『ゴースト&レディ』の企画を最初に四季から提案されたのは2019年『ノートルダムの鐘』京都公演のために来日した時だそう。帰国の飛行機に搭乗する前に英訳された漫画『黒博物館 ゴースト アンド レディ』を手渡され、機内で夢中になって読み、降機後すぐに「やりましょう!」と劇団側に伝えたとのこと。
それから5年、間もなく新作ミュージカル『ゴースト&レディ』の幕が上がる。裏切りの末の“絶望”を抱えるシアター・ゴーストと、生きる“希望”を人々にもたらすフローがどんな未来を紡ぐのか、開幕を楽しみに待ちたい。
劇団四季新作オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』は2024年5月6日(月・休)~11月11日(月)まで四季劇場[秋](東京・浜松町)にて上演予定。