2024.03.27 19:00
photo:ATSUKI IWASA
2024.03.27 19:00
せめて歌が鳴ってる時ぐらいみんなで安らげないかな
──2曲目の「あったかいね」は浅井さんの作詞とボーカルです。
浅井 最後にできた曲だったんだけど、これで日常的な要素も入って、全体がちょうどいいバランスになったね。
UA そうそう。私の歌詞、日常っぽくないのが多いから。
──今回は浅井さんのボーカル曲もあります。久々にAJICOの新曲を歌うことを決めた経緯は?
浅井 自然な流れ。たまたまそういう曲が出来たんだよね。『深緑』の時も2曲歌ったでしょ? 『接続』の時は、たまたまそういう流れにならなかっただけで。自分も歌った方が賑やかになりそうだし、より売れるだろうし。
UA 出た出た、またそんなこと言って(笑)。
──ラジオ番組のなかでも「あるべきものがちょうどいいぐらいあること」について歌ったというお話をされていましたが。
浅井 そう。みんなもそう思ってると思うんだけど、テクノロジーはもうものすごいところまで来た。それを止めることなんか出来ないんだけど、せめて歌が鳴ってる時ぐらい、みんなで安らげないかなって。昔はさ、年に一回あるようなお祭りにすごく燃え上がって、それが一年で一番楽しい時間だった。人の営みって、そのぐらいのものでもいいんじゃないかなっていう思いにある日気が付いて、それが自然と歌になったって感じかな。
──先程のUAさんに対して、浅井さんの作詞というのはどんな様子なのでしょうか。
浅井 俺はUAとは全く違っとって。あ、でもそういえば俺も言葉をばーって羅列するのも昔はしたことあるわ。 今はまず曲が出来て、そのメロディをコード弾きながら歌っている時にふわっと浮かんできたこと書く。それのみだね。大事なのは、朝起きてすぐやること。夜やっちゃダメなんだわ。朝起きて、カフェオレを優雅に淹れて飲む。それが効いてくるのまでの1時間ぐらいの間に、「今日は真面目にこの歌詞を書くんだ」と自分を持っていく。ここ10年くらいはずっとそんな感じ。何かこんだけ作ってくると、「もう書けないかもしれないな」と思う日もあって結構怖いんだけど、まあダメならダメな時のことだと思って試すじゃん? でも、こうしてちゃんと浮かんできた。「ああ、まだ出てくるんだな」という気持ちになった。自分でも嬉しかったよ。
──この曲をポップと形容していいのかどうか分かりませんが、一度聴いたら忘れられないぐらいキャッチーな歌い出しで。
浅井 そうだね。でもそこより〈それが家賃〉と〈やっすいね〉の方がキャッチーじゃない? まあとにかく俺は暖かくなりたいんだよ。どっちかと言えばUAの方が俺よりも攻撃的だよね。
UA まあ問題提起という点で言えばそうかもしれない。
浅井 俺はもう随分前に攻撃的な音楽をやるだけやってきたから。何かSNSとか、みんな心がめちゃめちゃ荒んでんじゃん? だから俺はそういう方向に行きたいみたい。
──あと、ちょうど「接続」ツアーの頃から浅井さんのボーカルがまた力強くなったような印象があって。ラジオ番組のなかでも「最近、ライブ前に身体のコンディションを整えている」といったお話がありましたが、それが関係されていたりしますか?
浅井 それもあるだろうけど、自分が演奏する時と歌う時の(身体の)姿勢について最近気付いたことがあって、それが一番大きかった。要するにリズムの取り方。よくオーケストラの指揮者の人が腕を振ってこう(指揮を)やるじゃん? それをイメージしてリズムを取るようにしたらギターも歌もめちゃめちゃ音が変わったんだよ。
──なるほど、そうでしたか。
浅井 指揮者のあの動きって理に適ってるんだなって。おかげですごく楽になったね。
──続いて、「言葉が主役にならない」は、UAさんのリリックです。
UA この曲はまずこのタイトルから書きました。途中で出てくる〈動的平衡〉という四字熟語は、さっき話した福岡伸一さんの本から拾いました。地球の総量自体は変わらず、水も生き物も微生物も全てはバランスを取って循環し続け、ただ絶えず命が流れているということなんだけど。わざと難しい言葉を平歌のところで言って、サビの〈言葉が主役にならない〉という言葉と対比させている。「ラヴの元型」も似ているんですけど、本当に言葉って文字だけを見ていると単なる“意味”じゃないですか。でも、言葉の向こうにも心がある。その心一つで、その言葉遣いも本当に変わっちゃうというか。そういう意味ではこの曲も「ラヴの元型」も、心の在り方についてを歌っているのかな。
──〈Don’t let them die, 過剰な光は要らないんだよ 〉の“them”が指すものは?
UA 本来、まだ死ななくて済むはずなのに命の危険に晒されている者、かな。まあ本来だったらとっくに死んでいるはずなのに生き長らえている場合も現実にはあるわけで、そこは難しいんですけどね。
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