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INTERVIEW

イラストレーターとしても活躍する新鋭映画監督の想いに迫る

物語に救われてきたからこそ、今は自分の物語を。武田かりんが描く“いつかくるハッピーエンド”

2023.12.14 17:00

2023.12.14 17:00

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心に穴が空いている自分だから作れた

──アンもアイナも武田さんご自身が投影されたキャラクターなんだろうなというのはすごく感じました。どんな選択をとっていたとしても武田さん自身はそれを否定したくない、肯定してあげたい、そんな気持ちがダブル主演にしたことに詰まっているのかなって。

ありがとうございます。いろいろ考えてもらえるのは嬉しいですね!

『ブルーを笑えるその日まで』より ©︎2023 ブルーを笑えるその日まで

──劇中、「心に空いた穴は一度空いたら一生治らない」という印象的なセリフがあります。きっと武田さん自身も心に穴が空いていて、少なくとも映画を作るまではその穴が空いた状態で生き続けていることが絶対に正しかったのか?と葛藤があったのかなと。この映画を完成させたことで、武田さん自身の中でひとつ決着はつけられましたか?

映画を完成させたから自分のコンプレックスの全部を受け入れられたか、と言われたらそれは嘘になってしまうと思います。今でもやっぱり悲しいし、昔の話をすると泣きそうになってしまうし、私は何も変わってなくて。誰かの希望になるためなら、私は「今は乗り越えました」と笑わないといけないんじゃないかなって思ってました。けど、公開を迎えて思うのは、その穴が空いている自分だから『ブルーを笑えるその日まで』を作れたんだと思うし、そういう子に本当の言葉で届けることができるなら、私はまだ悲しいままでいいやって。自分の経験がなければこの映画は作っていないし、この映画を通して出会った素敵な人たちとも出会わない人生だったんだ、と思ったら私の人生もなんか悪くないなって。渡邉さんと角さんともこの映画を作ってなかったら出会えてなかったので、私の今までの嫌だった経験や過去も自分の人生もよかったなって、今はちょっと思います。

『ブルーを笑えるその日まで』より ©︎2023 ブルーを笑えるその日まで

──ここからは武田さんご自身について質問させてください。中学3年間、本を読むこと、絵を描くことが心の支えだったと伺いました。

それは入院したことがきっかけになってると思うんです。中学3年間うまく言葉が出なくなってしまって、ずっと閉じこもっていたんです。でも高校に進学するときにそれを克服したいなと思って、病院に入院したんです。そのとき持ち込んでよかったものが数冊の本と、紙とペン。娯楽みたいなものは基本的にそれだけで一日中暇なんです。窓もなくて、扉もずっと閉まりっぱなしの密室なので。だから同じ本を何回も読みましたし、紙とペンで落書きするかしかなくて。

──絵を選んだというよりは絵を描かざるを得なかったんですね。映画の中では『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)が象徴的に登場しますが、最初に読んだのはいつ頃ですか?

高校生のころだと思います。私はお別れする話があんまり好きじゃなくて、『銀河鉄道の夜』は最後カンパネルラとジョバンニがお別れしてしまうんですが、「このふたりの旅って嘘だったの? 夢だったのかな?」というふうに思って。初めて読んだときはそれがすごい悲しかったんです。だからアンとアイナの物語は、ふたりの友情は幻じゃないし、この友情は本当で絶対にお別れはしないんだっていうふうに描きたくて。それでカンパネルラとジョバンニはお別れしたわけじゃないんだって、『銀河鉄道の夜』を自分なりに新しい解釈をしたかったんです。

──中学、高校のころに読んだ本を改めて読み返すこともありますか?

ありますね。中学生のころ好きだった、それこそ劇中にも出した『赤毛のアン』は憧れてましたし、今読んでもすごく好きな作品ですね。

──そして映画作りを始めたきっかけの作品は『時計じかけのオレンジ』だと伺いました。それも観たのも高校生のころですか?

はい。友達は少なかったんですが、美術の先生と仲が良くて。その先生いわく、構図の練習をするためには映画の名作を観るのがいいそうで、「名作映画の好きなシーンの構図をクロッキーしなさい」という課題を出してもらって。女性の先生なんですけど、その先生のことがすごく好きで、繋がっていたかったから絵を描いてたというところもありました。だから、課題には素直に取り組んでて、「観た方がいいよ」と言われた映画は全部観てて。それで『時計じかけのオレンジ』も観ました。高校生には刺激が強かったですね(笑)。

──高校に入ってからも絵は続けていたんですね。

友達ができてもうまく関われないというか、人と仲良くなることが難しくて……。そういうことに悩んでたときに、絵を描いてたんです。最初に仲良くなった子は絵が好きな子だったんですけど、絵が好きな友達とは絵を描くことで繋がれる。自分も絵を描いていれば絵の話ができるので、友達でいられるというか。美術の先生ともプライベートな話はうまくできないけど、絵の話ならうまくできるから。だから、人と話したくて絵を続けてたのかも。

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イラストレーターとして描きたいテーマ

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作品情報

ブルーを笑えるその日まで

©︎2023 ブルーを笑えるその日まで

©︎2023 ブルーを笑えるその日まで

ブルーを笑えるその日まで

アップリンク吉祥寺にて2023年12月8日(金)〜21日(木) 2週間限定上映(上演期間延長決定!)
ほか全国順次公開
2022/日本/99min/シネマスコープ/カラー/DCP

公式サイトはこちら

キャスト&スタッフ

【キャスト】
渡邉心結、角心菜、丸本凛、成宮しずく、佐藤ひなた、夏目志乃、片岡富枝、宮原俐々帆、根本拓洋、鳥谷宏之
土屋いくみ、若林秀敏、松澤可苑、荒澤智也

【スタッフ】
脚本・監督:武田かりん
プロデューサー:田口敬太、協力プロデューサー:田中佐知彦
撮影:上野陸生/照明:稲葉俊充/美術:野中茂樹/ヘアメイク:吉田冬樹/助監督:平岡凌/制作:田丸さくら
主題歌:RCサクセション『君が僕を知ってる』(Licensed by USM JAPAN, A UNIVERSAL MUSIC COMPANY)
製作:映日果人/武田かりん/kotofilm 配給:映日果人/配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
協力:埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ

武田かりん

アーティスト情報

26歳。2020年東京工芸大学映像学科映画研究室卒業。学生時代よりプロアマ問わず多くの映像制作に携わる。2020年映画研究室卒業制作として制作した初監督作『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』が複数の映画祭でノミネート・受賞。2022年、10代の頃の不登校や自殺未遂の経験を元にした本作を制作する。

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    #インタビュー#水は海に向かって流れる#當真あみ

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