2023.12.03 12:00
2023.12.03 12:00
映画『女優は泣かない』が12月1日に公開された。仕事にも人生にも行きづまった崖っぷち女優に与えられたのは、故郷・熊本でのドキュメンタリー撮影。スタッフは生意気なテレビディレクターたった1人。そんな女優人生最悪の仕事が、プライドで固めた彼女の鎧を、少しずつ剥ぎ落としていく。
女優役を演じるのは、蓮佛美沙子。スクリーンで見せる仏頂面とは一転、素顔の彼女はよく笑い、何でも包み隠さずオープンな人間だ。
2006年、女優デビュー。17年のキャリアを誇る実力派の女優魂に迫る。
荒削りだけど正直すぎる人間になった
──今回、蓮佛さんはスキャンダルで仕事を失った女優・梨枝を演じます。
脚本を読んだときに、梨枝は“棘の生えた柴犬”みたいな子だなと思ったんですね。作品の中で性格が悪いというような描写もありますが、本当の意味で悪い子だとは思えなくて。信用できる人が周りにいなかったから、武装しないと生きてこられなかった女の子。そこをしっかり膨らませることが大事なのかなと考えながら現場に入りました。
──“棘の生えた柴犬”って、面白いワードセンスですね。普段からそんなふうに役のイメージを膨らませることが?
ありますあります! この子はちょっとピンクの入ったオレンジかなとか、色で役を考えたりすることも結構ありますね。
──映画では、まさしくそんな梨枝の“棘”が抜けていくさまが描かれています。特に、中盤で描かれる姉役の三倉茉奈さんとの衝突のシーンは惹き込まれるものがありました。あそこで梨枝は初めて地元の言葉である熊本弁を使います。
方言が出るということは、ようやくあそこで梨枝は精神的な意味でも地元に帰ってこられたんだと思うんですね。家を出て10年、顔を合わせることのなかった姉との久しぶりの姉妹の会話。ずっと虚勢を張っていた梨枝が、やっと本音をぶつけられたことで武装が解けた。この物語の中でも彼女が変わるきっかけとなる大事なシーンでした。
──そう考えると、姉妹喧嘩ではあるけれど、あそこまで素になれるというのは梨枝にとっては幸せなことだったのかもしれませんね。
そうなんですよね。ずっとそれができずに、逃げてきたので。はたから見てると良かったねと思える場面でありつつ、本人にとっては新しい自分としてリスタートを切るために必要な苦しみの時間だったんだろうなと思います。
──蓮佛さんは鳥取県出身です。地元を捨てて東京で武装しながら勝負をする梨枝の感覚はわかるところがありますか。
私自身は武装という感覚はないですね。どちらかと言うと、嘘をつくとものすごく怒られる家庭で育ってきたので、良くも悪くも正直だよねと言われることの方が多いかもしれません(笑)。
でも、15歳で東京に出てきて、家族ではない大人に囲まれる環境を初めて体験したときは全然違いましたね。人から「どう思う?」と聞かれても、「お母さんがこう言ってました」としか言えない。自分の意見が持てなかったんです。今となっては信じられないですけど(笑)。
──でも15歳で大人に囲まれるとそうなりますよね。
うちのチーフマネージャーさんがよく「君はどう思うの?」と聞いてくる人で。しかも結構スパルタだから(笑)、自分の意見がまるでない私に対して「人間、変わりたいと思ったら次の日からでも変われる」ということを言ってくるんですね。
そこから荒削りではありましたけど、だんだん矯正されていって。ひとり暮らしをして、大学に行きはじめたくらいからかな。少しずつ意見を言えるようになって、今ではこんな正直すぎる人間になりました(笑)。
──そうやって自分の意見を言えるようになると、より仕事が楽しくなりますよね。
楽しくなりましたし、より自分に責任を持たなきゃと考えるようになりました。結局、自分の軸も何もないまま、人から言われたことをやっているだけだと、たとえ周りから評価してもらえても素直に受け止められないんですよね。それこそ何か悪いことがあったときは、あの人が言ってたから……って人のせいにしてしまう。
でも自分で決めたことならプラスの評価もマイナスの評価もちゃんと自分で受け止められる。そうやって自分で覚悟を持ってやっていく方が私は好きなんです。
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