特別対談「日比谷音楽祭が目指す音楽の新しい循環」 #1
“感動体験”を原点に、亀田誠治×小山田壮平が考える仕事を超えた音楽の魅力
2023.10.02 17:30
2023.10.02 17:30
変化が激しい時代でも自分は自分でしかない(小山田)
──コロナ禍でアーティストの皆さんは色々逡巡があったと思うんですけれど、この時期を経てこれからどんな音楽の循環のあり方が考えられますか。
亀田 今回のこのコロナ禍で、僕としては得たものが少なからずあって。まずは自分の周りのミュージシャンやアーティスト、スタッフとの団結が強まった。はじめの頃は「数ヵ月後には収束」って言葉があったほどで、そこに目掛けて今は大変だけどどうしようかっていう工夫をしましたね。それは具体的にはリモートを駆使して人と人とが接触しない形でのレコーディングのやり方を限りなく僕も研究したし、機材を充実させたりもしたし。僕がそういう形で、コロナ禍に入っても止まらずにレコーディングや創作活動を続けていくと、僕の周りのミュージシャンたちも、「じゃあ自分もリモートでやってみよう」みたいな形でそこに対応してくれるようになったりしたんですね。これがその“循環”ということに繋がっていくんですね。
──と言いますと?
亀田 それはもう何年も前から日比谷音楽祭で僕が唱えたい“音楽文化を根付かせる”っていうことのきっかけにもなっていくんですけれど、さまざまな制作の現場で、作品を作るっていうことに対してのお金の循環がすごく悪くなってきていて。楽曲制作の予算が減っていく中で、なるだけコンパクトに作品作りができないか?ということに、みんなトライしていたと思うんです。それはコロナ禍の前から。そしてコロナのようなどうにも身動きが取れないような厳しい状況があったおかげで、これはもうデータ交換とかリモートもやむ無しみたいな。
で、やってみたら意外とスタジオでみんなとワイワイやるのも楽しいけど、自分一人でコツコツやるのも楽しいなあっていう、自分が宅録を始めた頃の気持ちに近づけたりとかしたんですね。経済的な要因が引き金になってはいるんだけども、コロナ禍を経ることによって自分たちの心や体の中にもともとあった創作意欲みたいなものが、なんかさらに引き出されてきたみたいな、新しい扉が開くきっかけになったなあっていうのはあります。
小山田 確かにそう言われると自分もこの1〜2年でGarageBandが上手くなって(笑)。宅録でこう細かくするのとかが上手くなったのはよかったなと思いますね。
──制作のシステム以外にも何か変わった部分はありますか?
小山田 どうでしょう? 日々僕が思うのはコロナというより日々変わっていって、特に今は変化が激しい時代なのかなって思いますけどね。目まぐるしいというか、そこにちょっと取り残されてる気持ちもちょっとありながらも、まあしょうがないかなと。自分は自分でしかないしっていう気持ちで淡々と生きてるんですけど(笑)。
亀田 この淡々と生きる小山田さんのようなアーティストが胸を張って作品を世の中に出したりとかライブができるっていう環境を僕は作りたいなと思っていて。で、小山田さんのように考えている人もシーンのど真ん中を突き進んでいる人も、実はみんな同じところから始めてたりして、たまたまいる場所が違うっていうだけなんだと思う。で、そこになるだけ垣根なく平等に光を当てることが日比谷音楽祭のような無料でかつ特定のジャンルがない、都心の野外っていう、さまざまな人を開放させる準備ができている場所で、アーティストさんの真価を引き出して、たくさんの人にまだ知らない素晴らしい才能に直に触れてもらいたいんですね。
──多様な人が参加できますし。
亀田 はじめは僕らもね“循環”とかっていう言葉は使ってなかったんですよ。音楽の間口を広げるとか誰もがたくさんの知らない音楽に出会うきっかけを作るっていうことを掲げていたんですけど、だんだんコロナ禍の中で開催中止とか、オンライン配信のみ、みたいになってく中で、どういうカタチでつなげていけばいいだろう?と考える中で、これは「循環をさせていく」っていうことなんだって、困難な中でも、動きつつづけた中で見つけたワードなんですね。なので、小山田さんが「変化がめまぐるしい時代だ」って言ってましたけど、その目まぐるしい中で「あ、これは循環させていくと、シンプルに言うと楽になるんだ。みんなが幸せになれるんだ」っていう、そこにたどり着いたような感じですね。
次のページ