2023.09.02 17:00
2023.09.02 17:00
TikTokフォロワー150万人超えのバーチャルクリエイター・夏絵ココがアーティストデビューを果たした。2021年10月から活動を開始し、言葉を一言も発さず身振り手振りを巧みに取り入れ、ゲームやアニメ空間にいるような世界を創りユーザー交流を図る“無言配信”で注目を集め、2022年には「TikTok Awards Japan 2022 LIVE Creator of the Year」最優秀賞を受賞。そんな既成概念を壊して新しい価値観を創造してきた夏絵が、次なるツールとして着目したのが「音楽」だった。
デビュー曲「Virtual mod Real」は「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)からの解放」をテーマに、自身が作詞を担当している。夏絵ココはどんな考えの元、音楽という表現を追求し始めたのだろうか。そこには視聴者と真摯に向き合ってきた、情熱的な姿があった。
念願だったアーティストデビュー
──ずっと気になっていたんですが、TikTokは他のSNSに比べると辛辣なコメントが多くなりがちですよね。
そうですね。他のTikTokerさんはどのように感じているかはわからないんですけど、わたしはその辛辣なコメントありきで投稿や配信をしているので全然平気です(笑)。メンタルが強いとか弱いとかの概念じゃなく、本当に気にしていないんです。
──そういう夏絵さんの考え方も、アーティストデビュー曲「Virtual mod Real」には関わっていそうですね。今回のお話は半年前からあたためていたとのことですが、アーティストデビューを視野に入れるようになったのはいつ頃ですか?
2021年10月31日に「博士」が夏絵ココを作って、その活動を続けていくなかで歌をやってみたい、音楽に携わってみたいと思うようになりましたね。それが半年くらい前です。
──そう思ったきっかけとは?
わたしが活動において大事にしているテーマが関係していますね。それが「間を大事にする」ということなんです。
──間?
2次元と3次元、無加工と加工、わたしはどっちも行ったり来たりしているけれど、どの自分も自分だなと思うんです。加工されて世界観を作りたいわたしも、いまこうして話している無加工の夏絵ココもわたしだし、そのどれもが「みんな」が見ている間に存在するものだと思うんです。
──夏絵さんと視聴者一人ひとりの間に、視聴者それぞれが思う夏絵さんの姿があると。
みんなとのコミュニケーションで成り立った、みんなの感想があるというだけだと思うんです。「あなたとわたしの間で生まれたコミュニケーションは、あなたがそういう言葉を放つという結果を生んだ」という解釈だから、アンチや嫌なコメントが気にならないんですよね。物事はすべてそういう間で成り立っていると思うので、わたしにとって重要なテーマなんです。そういう意味でも音楽は、間を感じる場面がすごく多いなと思っていて。たとえば、音楽は能動的にも受動的にも楽しめるものだと思うんです。
──確かに。ライブで例えるならば、ステージの上に立つ演者は能動的に音楽を楽しんで、観客は受動的に楽しんでいますね。
自分の考える間の概念にいちばん近いのが音楽だと思ったんです。しかもいろんな観点から爆発力も生み出しますよね。こんないいものないよなとずっと思っていたので、今回は念願のアーティストデビューなんです。
──夏絵さんが「次元を創造するバーチャルクリエイター」と呼ばれたり、「思考実験」というワードを使って活動している理由が見えてきました。それを実行するために「博士」が生み出したのが夏絵ココということですか?
はい。博士は幼い頃からずっと、じっくりいろんなことを深く考えていくのが好きな人で、その末に夏絵ココを作ったんですよね。わたしより博士のほうが気難しくてクセ強めです(笑)。博士は小さい頃から「なんでそういうことしか言えないのかな」と怒ることが多くて、ルッキズムや性差別をする人に対してキツめな気持ちを抱いていたんですよね。でもそんな博士も、ふとしたときに「みんな主観で生きてるし、その物事を知りたいと思わない限り客観視をすることは無理だよな」という思考に行きついたんです。
──夏絵さんもそれを引き継いだと。
博士がそう思うようになったから、夏絵ココは「人は主観のなかでしか生きられない」「あなたに起こっているすべてがあなたの思考」と受け止めるようになりましたね。そういうぶつかり合いで「間」が生まれるからこそ、今回の楽曲を作るにあたっても、関わってくださる方々とぶつかり合いたかったんです。わたしの話した「こういう世界観を曲で表現したい」に対して作曲者さんが全力でぶつかってあの曲が生まれて、わたしがそこに作詞というかたちでぶつけてあの曲ができた。それがすごく楽しかったです。
──作詞や歌に関しては、どんなところが面白かったですか?
いろんな制限があるなかで言葉を紡いで、それを歌声で表現するのが面白いなと思いましたね。自分の思っていることを書いているんだけど、そこに曲調やリズムが乗っかると新たな解釈ができるのは歌にしかない魅力だと思います。わたしがひとりで喋っているとわたしの声という1個の音しかないですけど、音楽はたくさんの音でできているからこそ、聴く人によって耳に残るポイントが違うし、解釈がものすごく広がる。それは音楽ならではだと思います。
──それが先ほどおっしゃっていた「音楽には様々な間がある」ということですね。
博士にとって歌は趣味のひとつで、カラオケに行ったり、音楽を通して人と楽しむことは好きだけど、歌手になりたいという欲は一切なくて。夏絵ココとして活動をしていたからこそ音楽のそういう面に気付けたし、そういうものを追求したいと思うようになったんだと思います。
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