『Love Will Tear Us Apart』で刻んだ人生の新たな一幕
「正しさから外れた愛は幸福か?」青木柚が価値観を超越して広げたキャパシティ
2023.08.19 12:00
2023.08.19 12:00
“狂おしいほど愛せる”ことは幸福なのかも
──吹越満さんと麿赤兒さんとの共演はいかがでしたか?
お二人ともこの映画が初共演なんですけど、その後にそれぞれ別の作品で共演する機会があって。そのどちらともこの映画と役も雰囲気も違かったので、改めて共演した時に安⼼するぐらい、この作品でのお二人のインパクトってすごいなって思いました(笑)。
──お二人とは具体的にどういったやりとりをされましたか? 印象に残った言葉とかありますか?
吹越さんに関しては現場での視野の広さを学ばせていただきました。それこそ吹越さんはその役を信じるというか、ご本⼈がどうだったかはわからないですけど、突⾶なシーンにも説得⼒を持たせてしまう凄みを感じました。麿さんも、役柄への⾊の付け⽅が、当たり前ですが⾃分にないものばかりで勉強になりました。役柄を全うする⾵格に加えてチャーミングさも持ち合わせていて。⾝体を酷使する場⾯でスタッフさんが気を遣って「本番だけでいいですよ」と⾔うのに対して、「いや、やりたいんだ!」と楽しんでやられていたりとか。奄美⼤島の撮影帰り、ロケバスの窓を開けて歌を⼝ずさんでいたのも印象的です(笑)。そういった空気感が⾃分には刺激的でいい経験になったなと思います。
──吹越さんとは役としてがっつり対峙したんですね。
監督と相談して「こうしようか」というような話し合いはされていたんですけど、シーンが始まって豹変するっていうよりは、フラットに⾃分と地続きにあるような空気感で突き抜けた役柄を体現されたのがすごいなと思いました。
──俳優としてもそうありたいなと思いましたか?
思いましたね。当時の⾃分は現場での佇まいというか、役の気持ちのキープの仕⽅にムラがあったというか。⾃分のことを理解しきれずにキャパもわかっていなかったので、その状況で吹越さんや麿さんを⾒たらより憧れを抱きました。
──役者人生としても忘れられない一幕を刻んだんですね。
本当にそうだと思います。
──鮮烈なシーンが目を引く映画でもあるんですけど、実は川と湖と山と海がとても綺麗に映っていますよね。あの風景の美しさが実は共存しているっていうのが、変な映画だなと思ったんです(笑)。
めちゃくちゃ綺麗でしたね。
──くだらない質問を挟んでしまうのですが、青木さんは海派ですか? 山派ですか?
(笑)⾒るなら海、⾏くなら⼭です。どっちつかずの答えになっちゃったけど(笑)。 眺めるなら海が良いし、体験するなら⼭がいいなって感じですね。でもどっちかというと山かな? 登るのも楽しいし、見るのも楽しい。あんまり海に行って泳ごうっていう気にならなくて。楽しいと思うんですけど、山の方が二度楽しいというか。登っているといろいろ思えるし、登り終わって風景を見てる時も何か考えられるので。
──今回、同年代の役者陣とのコミュニケーションは取られましたか?
世代が⼀緒だったので、とてもいい雰囲気でした。特に最初の別荘に⾏くシーンは実際に楽しんでましたね(笑)。⼈数が多かったので、撮影のない⼀部のメンバーでホテルの近くにある昔ながらのゲームセンターに⾏って……この映画からは想像できないほど爽やかでした(笑)。ハードな撮影の反⾯、そういった時間があったので、気持ちを保てた感じはします。現場でも同世代の皆さんがいなかったらもっとしんどかったと思います。
──皆さんのおかげで息抜きできるときはできて?
そうですね。撮影外でそれぞれが楽しんでいる雰囲気が、本編に映っているおもしろい個性をより際⽴てているのかなと観ていて思いました。
──“狂おしいほどの愛”というコピーが一番のヒントでもある作品ですが、“狂おしいほどの愛”という言葉を聞いてどのようなイメージを持ちますか?
何か⼀つを狂おしいほど愛せるということ⾃体が羨ましいなと思ったり、正しい感覚ではないかもしれませんが、演じたキャラクターのような道を歩んでもなお、何かを愛するということが出来るのは、もしかしたら幸福なのかもしれないなと感じました。正しさから外れた中でも愛せるものに出会えることは少ない気がしますね。⼀⼈の⼈間としてそういう愛の感覚は芽⽣えたりするのかなとか、フラットに狂おしいほどの愛というものを考えるきっかけにはなりました。
──この映画を体験する方々にも、自分にとって狂おしいほどの愛が向けられる対象って何だろうなって考えてもらえたらと思いますね。
本当に⾊々な表情を持った映画ですね。もちろん視覚としても楽しめるし、⾃分にはこんな内⾯があったんだって気づけたり、むしろ全然⾃分と違うなという感覚にもなったりする映画だと思います。森にさまよい込むような、映画の中に⼊っていく体験を楽しんでいただけたら嬉しいです。