関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第13回
松田優作の凄まじさを見る、今の映画が物足りない人におすすめしたい『蘇える金狼』
2023.05.28 12:00
2023.05.28 12:00
この時代だから描けた“ハードボイルド”
これだけ良い悪役、今は集められない。邦画史において傑作中の傑作ですよ。優作さんの息子である松田龍平さんと翔太さんは今の世代の方にも人気が高いですよね。二人にはお父さんの影をふわっと感じますが、やはり近代に生きているし優作さんとは育ってきた環境が大きく違う。
本作が公開された70年代って、まだ戦前・戦中に生きた人が先輩にいたわけですよ。監督や先生などにね。ぶん殴られましたからね、先生に。芸能界も厳しかったですよ。椅子に座ったまま挨拶して殴られた俳優も沢山いました。東京オリンピックの女子バレーとかも異常な練習でした、そういう厳しさがまかり通っていた頃の最後の時代が『蘇える金狼』が公開された頃なんです。
なので、本作のようなハードボイルドものも映画やドラマのジャンルとして多かったけど、今はもう流行らないですよ。先輩や親が戦争を知らないじゃないですか。僕も戦争を知らないですけど、若い子からしたら“おじいちゃん”ですから。そりゃあ、今の時代にあんな狂ったような映画作れませんよ。要するに、若い世代からすると江戸時代の話みたいな“時代劇”になっちゃうから。僕らにとっては懐かしいけど、今の子は、あまり見ないものでしょう?
まだアメリカって『ジョン・ウィック』や『イコライザー』など“ハードボイルド”が残っているんです。それはベトナム戦争があったり、イラク戦争があったりしたから。まだ最近の出来事じゃないですか。海外ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』もあの頃に作られていたでしょう? 向こうは人種差別の問題もあったり、今もカルテルが戦っていたり、デモもやっている。実際、肌で感じるところにそういう題材が多いんですよ。日本だとやはり『半沢直樹』のような作品の方が共感性も高いし人気で、『蘇える金狼』のような悪がのし上がっていくタイプの作品はもうないんですよね。本作はあらすじを読むだけでもめちゃくちゃだし、大藪春彦は痛快です。
逆に、今の若い子が普段触れる機会のないタイプの作品だからこそ感じられる魅力があります。“個性”ですね。俳優さんの“個性”と監督の演出の切れ味。この映画は、どんどんのめり込むように進んでいくんです。それを感じてほしいです。今の映画にはない空気感や雰囲気があって、あの頃はアメリカ映画にも負けていなかった。むしろ日本の映画を各国が真似しようとしていたんです。
あとはとにかく、松田優作の生身を見てほしいです。彼の代表的な一作としてね。そのあとは『ブラック・レイン』(1989年)を観てほしい。あれもすごい映画でした、出演後にオファーが相当来そうだったのに、残念ながら松田さんは亡くなってしまって。膀胱癌だったんです。撮影中はもう死期が迫っていることを知っていて、痛み止めを打ちながら挑んでいたらしい。なので『ブラック・レイン』の彼の演技は、本当に死を目の前にした人のものなんです。
『暴力教室』(1976年)も凄い作品ですよ。松田さんが教師役で、舘ひろしさんが生徒役なんですけど、これがもう両者の顔が画面にアップになると、にそれだけで見ていられる(笑)。ストーリーより俳優を見る映画ですね。『暴力教室』も村川透さんが監督しています。二人は結構一緒に仕事をしていたけど、やはり『蘇える金狼』がバランス的に一番の作品だと思います。
サラリーマンをしている悪い奴が、上層部が会社を食い物にしているのを見つけ、それを脅しながら、のし上がっていく。向こうが仕掛ける罠も沢山あるけど、それを全部かいくぐって勝ち組になるという気持ちのいい映画です。観ていてワクワクするし、スカッとしたい人、今の映画に物足りない人におすすめしたい。あとは何度も言いますが、松田優作ですよ。今の人は彼の“像”しか知らないじゃないですか。なので、ちゃんと見てほしい。彼の演技力と凄まじさを。