2023.05.10 17:00
2023.05.10 17:00
「みんなで作る」作業が好き
──他のインタビュー等でも「役との素の自分との境目がない」とよく話されていますが、逆に「役柄」が「福地桃子」自身に影響することなどはありますか?
ありますね。自分が演じさせていただく役から「いいな」と思う部分を取り入れたくなるんです。例えばNetflixで配信されている『舞妓さんちのまかないさん』で演じたつる駒という役なんかはムードメーカーのような、その場を明るくするような役柄なんですね。そのときに「人を楽しませるのってこんなに心が躍るんだな」と思ったんです。普段の自分がそれを率先してできるかというと自信はないけれど、つる駒のようなユーモアはこれからも持ち続けたいなと思っています。
──役柄みたいに「なれたらいい」と思うんですね。
常に「自分がやる役」にどこか憧れを持つんです。そのこと自体が、役作りへのアプローチになっていたりします。
──そういうアプローチは、これまでの経験の中で見つけていったものですか?
そうですね。作品に参加させていただく中で、たとえばこちらでは「ここがいい」って言われたものがあちらでは必要なかったりとか、そういうこともある。誰かの言葉を一つ信じ持っておくというよりは、そういえばそんなことも言われたな、あんなことを言われたな……と「いろいろな自分」を人と関わるたびに見つけてもらっているような気がします。例えば『あの娘は知らない』なんかは、自分にあてて書いて頂いた役だったので境目があったのかどうかわからないんです。演じた奈々という役の心の動きを自分としても表現する必要がありました。映画としても描かれていない部分の想像だったり、そういうことを考えすぎてしまったときがあり、演じる前はなんというか、体が重たくなってしまったことがあったんですよ。
──最初に言われていた「体が重い・軽い」という感覚ですね。
でも実際に撮影場所に行ってみて、現場の空気を吸ってみたり、岡山天音さん演じる俊太郎さんとの掛け合いの中で、すごく引き出してもらった部分もたくさんあり。そのときは監督から「相手の言葉を受けて、自然に動いた方に進めばいい。自分の要素を殺すのではなく、きっとこの役は奈々という人間であり、福地さんでもあるから」という言葉をいただいたことで、すっと川の流れのように自然にいられるようになりました。毎回いろいろな方に助けてもらいながら、一つひとつの作品を重ねてきた感じです。
──『あの娘は知らない』は2023年になってからも各地の劇場で上映されていましたね。
ついこの間も舞台挨拶に伺わせていただいたりしたんですが、全国のミニシアター等で上映していただきました。それに伴い、自分もまだ行ったことない場所を訪れる機会がたくさんあり。多くの方に観て頂いてるということも嬉しいですし、舞台挨拶ってたった今映画を観終わった、その方たちの持ってる温度をものすごく感じられるので、なんだか自分にとっては不思議な体験で……作品がどう届いているのかという緊張と、わくわくした気持ちと、一人ひとりに「ありがとうございます」って言いたい気持ちが入り混じっている不思議な気分。でもこうやって長い間上映が続いて、舞台挨拶に回ることができる、そんな作品に関わることができたのはありがたいことだなあ、と思っています。
──今、「今後こういうことに挑戦してみたい」と思っていることはありますか?
今思っているのは、一つひとつのご縁というか、巡り合わせをもっと大切にしていきたいなということ。言葉でしか自分の思いは伝えられないけど、「言葉にできない思い」みたいなものはたくさんあるんです。たとえばお仕事の現場でそれをキャッチしてくれる人と出会えたり、もしくは撮影現場でそういう感覚になれると、なんかとても助けられたような気持ちになれるんです。いつ参加しても「一人で戦っている」ような気分になることはなくて。私、そうやって「みんなで作る」という作業が好きなんです、やっぱり。だからこそ、このお仕事が楽しいと思います。