関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第9回
なぜ、加山雄三が“若大将”と称されたかがわかる『エレキの若大将』
2023.01.09 12:00
2023.01.09 12:00
俳優としての加山雄三
なんで加山さんが“若大将”って呼ばれていたかって、今の若い人からしたらわからないと思うんですよ。「おじいちゃんじゃんって、何が“若大将”だ」って思うかもしれない。ただ、『エレキの若大将』を観ていただくとわかる、そういう映画なんです。
本作はメインキャストの他にも、遊びにくる蕎麦屋の店員さんが“エレキギターの神様”と言われたブルージーンズの寺内タケシさんだったり、プロになって歌うシーンのバンドにザ・ワイルドワンズの加瀬邦彦さんがいたりと、カメオ出演も豪華です。加瀬さんには、加山さんがギターを教えたんですよ。そして司会者を演じるのは、若い時の内田裕也さん(笑)。ギタリストのメンバーに黒沢年雄さんがいたり、大学生の女の子の一人がのちの加山さんのご婦人となる松本めぐみさんだったりと、スターがいっぱい登場する映画でもあるんです。
まあ、ストーリーとしてはお金がない状態で自分の実家の店も大変なことになったりするわけですが、最終的には都合の良い感じに収まる(笑)。多少ハラハラしながら、まあ観ていて気持ちが良い。テンションはずっと高い映画ですね。
本作の後の『アルプスの若大将』になると監督が古沢憲吾さんになって、もっとカット終わりが全部ギャグになりましたね。『エレキの若大将』もカットじりが「シェ〜!」とか「ちぇっ!」とか、必ずオチみたいなものが入っているんですけど、あれが面白くてね。『アルプスの若大将』はもう全部がそうで、「コント終わり、はい次の場面ね」ってふうになっているのが最高でした。画面の色も照明も明るくて、観ていて元気がでる。それに、あの頃はギターブームだったわけで、「エレキは不良」っていう時代背景も作品を面白くさせる。だからサザンオールススターズの桑田佳祐さんも加山さんの影響受けているわけです。
加山さんはそうやっていろいろな方に多大な影響を与えたわけですが、あの頃は早く俳優を辞めたくてしょうがなかったんですって。そもそもなんで俳優になったかっていうと、慶應大学在学時、学友に「俺は海が好きだから、将来は船を造りたいんだ」と言ったことがきっかけでした。それを聞いた学友が「お金結構かかるから、お前の親父映画のスターだし、そのコネでお前俳優やれよ。金儲かるから。それで自分の好きな船造れるぞ」って言うもんだから、「え、そうなの?」って言って、それで業界に入った。だから、目的が船を造るためだったわけです。それで俳優をやっているうちに早く辞めたいって思うようになったんだけど、何で辞めたいかっていうと、自分の出演作を「内容のないセリフで、内容のないバカみたいな映画」って思っていたからで、「こんなんいつか辞めてやろう」って息巻いていたらしい。それでも加山さんはスターになっていった。すると、東宝はあんなヒットしていた「若大将シリーズ」を休ませて、彼に黒澤明の『赤ひげ』の準主役もやらせたらしいんです。それで黒澤さんと仕事をしたら、加山さんは考えを変えて辞められなくなっちゃった。「なんて素晴らしいんだ、映画ってこんな深いんだって」って。そのあとは『椿三十郎』もやって、コメディも硬派も両方できる俳優になったわけですよ。
それで結局、光進丸も作れましたからね。それで世界中を周れる免許も持っているんです。
やっぱりあのハツラツとした……なんだろう、育ちの良さをパワーに変えていくところってすごいんですよ。ただ育ちが良くても、ダメになっていくやつっていっぱいいるじゃないですか。ドラ息子みたいなの。その生まれ育った環境によって持っていたものを、そこから自分の力でまた一段階、二段階上げていってスターになった人なんです。凄いですよ。『エレキの若大将』はなぜ、加山さんが“若大将”だったか、ということがわかるし、日本の映画が一番元気な頃のライトコメディ、そして田中邦衛さんの凄さが感じられる作品なので是非観てほしいです。