映画『シャドウワーク』の現場で初めて見せられた姿とは
「やっと自分を大人として認められるようになってきた」奈緒がルールに縛られず謳歌する30代
2026.10.02 19:00
2026.10.02 19:00
今この国は、他人の過ちを許せない正義中毒に取り憑かれている。自分とは異なる価値観を受け入れず、過剰に攻撃し、制裁を加える。けれど、はたして絶対的な正義などあるのだろうか。自分の持っている正義の基準が本当に正しいと誰が証明できるのだろうか。
9月25日に公開された『シャドウワーク』は、現代病とも言うべきうぬぼれた正義感に揺さぶりをかける映画だ。三浦半島の外れにある、ごく普通の〈おうち〉。一見のどかな時間が流れるその場所は、配偶者や親から暴力を受ける女性たちが身を寄せるシェルターだった。DV夫から逃れ、〈おうち〉に身を寄せた紀子(吉岡里帆)は、やっと穏やかな日常を手に入れるが、実はその〈おうち〉ではDV加害者の恐怖から被害者を解放するための“交換殺人”が行われていることを知る。
そんな〈おうち〉の秘密に迫る刑事・薫を演じるのが奈緒だ。傲慢な正義と断罪が氾濫する現代社会で、奈緒はこの物語に何を見出したのだろうか。

台本1回目はストレートに、そこから次は疑って読みます
──メガホンをとったのは、『君は永遠にそいつらより若い』でもタッグを組んだ𠮷野竜平監督です。本作は、𠮷野監督から奈緒さんにオファーがあったという経緯でしょうか。
そうですね。𠮷野監督の『ファンファーレ』という作品を劇場に観に行ったときに監督にお会いしまして。そこで「今進めている企画がある。この作品を通して、まだ見たことのない奈緒ちゃんが見たい」というふうなお話はいただいて。叶えばいいなと祈りながら待っていたら、正式に今回の企画書をいただきました。
──じゃあ、そこから原作もお読みになって。
はい。読み終わったときに、静かな恐ろしさと希望が共存しているような作品だなと感じました。きっと受け取る人によって感じ方がガラッと変わる作品なんだと思います。原作者の佐野(広実)先生もインタビューで「この作品を読んだあとに、自分の評価軸が何なのかを考えてほしい」というようなことをお話しになっていて。彼女たちがしたことが間違いだったのか正解だったのかをジャッジするのは簡単だけれど、そういう安心するための答えを探すのではなく、もし自分が同じ立場だったらどうするかを考えさせてくれる作品といいますか。
脚本にも、〈おうち〉のメンバーを含む登場人物の選択が正解だったのか間違いだったのかという答えは書かれていません。そこはきっと𠮷野監督も観客のみなさんに託されたんだと思います。脚本を読んだときから、今まで見たことのない映画になると思ったし、自分だったらどうするかを考える作品になるだろうなという確信がありました。

──ちょうどこの夏、映画界では『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が爆発的なブームを呼びましたが、この作品の投げかけているものは『ちいかわ』のそれと重なるものがあるなと思いました。
私はまだ観られていないんですけど、『ちいかわ』の映画がすごいというお話はあちこちで耳にしていて。まさか可愛らしい『ちいかわ』とこの映画の投げかけるものが重なるとは思いませんでした!
──こうした映画が偶然にも重なったのは、もっともらしい正義で人が断罪されていく現代において、正義の物差しなんて誰にも決められないということを、世の中の多くの人が感じているからじゃないかと思いました。この映画における、薫もまさにそんな存在ですよね。奈緒さんは、薫が作品の中でどういう存在でいればいいなと思いながら役を組み立てていきましたか。
薫さんは警察官として〈おうち〉で何が行われているのかを探っていきます。それによって〈おうち〉の日常が崩れていく。〈おうち〉で暮らす女性たちにとって、薫さんは平穏な日々に立ち込める暗い雲のような存在だと思いました。
あとは、〈おうち〉では同じ傷を抱えた女性たちが支え合って温かい居場所を築いていくのに対し、薫さんは警察という男性社会の中で一人で戦っている。その対比がとても鮮やかに描かれているなと思ったんですね。なので、薫さんの担っている強烈な孤独をしっかり表現できればと思いながら撮影に臨みました。
──本来は〈おうち〉の女性たちと連帯できる事情を抱えた薫が、彼女たちの平和を脅かしていく。その構造が巧みだなと思いました。
薫さんの中で何かがおかしいという違和感はあるけれど、はじめから真相に辿り着いているわけではない。今どれくらい疑いを持っているのかということは台詞には書かれていないので、薫さんが〈おうち〉の人たちのことをどう思っているのかについては、シーンごとに細かく監督と話し合いながら撮影していきました。
──マスコミ向けのリリースで、𠮷野監督が奈緒さんのト書きの読み込みについて絶賛されていました。
本当ですか。(手元のリリースをめくりながら)え、どこに書いてあるんだろう(笑)。
──ちょっとそのあたりの台本の読み方についてお話を聞いてみたいです。
昔、教えていただいた「1スジ、2ヌケ、3ウゴキ」という言葉が自分の中にずっと残っていて。スジとは脚本で、ヌケがカメラ、ウゴキというのが俳優部のお芝居のことなんですけど、この三つがうまくいくと作品はうまくいくというふうに教えてもらったんですね。
なので、まず俳優である私がやるべきことは、台本をしっかりと理解すること。ト書きも含め、台本に書いてある文字はすべて役を理解するヒントだと思って、丁寧に読み取るようにしています。

──それは、たとえばト書きに「微笑む」と書いていたら、その「微笑む」という動作に含まれる行間というか、サブテキストを自分でつくるという意味でしょうか。
もちろんなんで微笑むのかということも考えますし、逆に「本当に微笑んでるのかな?」と疑うこともします。これはもう趣味みたいなものなんですけど(笑)、まずは1回ストレートに読むんです。そこから、次は書かれていることに対して疑いを持って読むのが私にとっては楽しい作業で。「微笑むと書いてるけど、じゃあその微笑みはどれくらい表に出ているんだろう?」というようなことを延々と考えています。私は、時に台詞以上にト書きの持つ情報量って多いなと思っているので、ト書きと向き合うのは好きですね。
──面白いですね。奈緒さんのお芝居を構築するものって、そうした分析と感性を割合で示したら何対何くらいですか。
現場に入る前は完全に分析です。ただし、現場に入るときは自分がそれまで考えてきたものを持っていかない。現場では自分の中にある感性を100%出せるように、それまでの間にたくさん考えて。お芝居が始まったら、分析してきたものが反射神経になって、勝手に体が動いてくれる状態が理想です。
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