2026.07.14 18:00
2026.07.14 18:00
自分から遠い役をやることは、私自身の価値観を耕すこと
──余白の多い映子の人物像は、監督とのお話の中で自然と立ち上がっていったとのことですが、実際の撮影はどうだったのでしょう。
現場ではなるべく脱力していようと思っていました。こういった作品をやるうえで力が入っていると、あまりいいことが起きない気がして、なるべく脱力していようと。

──その試みは正解でしたか?
新しい気づきはありました! というのも、ずっと脱力したままなのも疲れてしまうと分かったんですよ。力を抜いていると、どんどん重力に負けていく感覚がありました。
──すごく興味深いです。
だから自然と、カメラの回っていないところでは伸びをしたりしてました。脱力したままだとリラックスはできても、気分は上がらないので。それであるとき、カットがかかったから私がルンルン歩きで演出部のほうに行くと、助監督の方に「映子はそんな歩き方はしません」と言われて(笑)。
──そんなに(笑)。
そこで気がつきました。その助監督さんはもちろん、現場に携わる多くの方が、純粋に私のことを映子として見てくださっていることに。皆の中の映子を崩さないと決めて、それからはできるだけ、現場では静かに過ごすようにしていました。
──座組の共有感が伝わるエピソードです。亜佐美の関係者たちと映子のやり取りは、どれもスリリングでした。みなさんとのお芝居についてもお聞きしたいです。
劇中に収められているものは、ほとんどバトルみたいですよね。でも演じる私たちとしては、つねに助け合いの連続だったんです。
──助け合いですか。
役者同士の演技のキャッチボールともいえるもので、シーンの展開にあわせて、球の種類やスピードが変わります。それをどうにか受け取って、投げ返すという。このやり取りの中で自然と生まれるものも多かったですし、やっぱり自分から発信するもの以上に、目の前の相手に引き出していただくものが多かったですね。
──しかもそれは、草原でも繰り広げられる。
そうなんです。ときに私たちにはどうすることもできない自然の力を感じながら、大地の力を借りながら、新感覚の撮影を楽しんでいました。予想外のことが起きるので、それをきっかけにギアをひとつ上げたりもしながら。

──奈緒さんはテーマやメッセージを背負うことが多い印象があるとお伝えしましたが、個性的な役どころを務めることも多いですよね。
これもよく言っていただきますね。
──ご自身としてはどういうふうに捉えていますか?
人は誰しもそれぞれの個性というものを持っていますよね。それは私もそうですし、演じる役もそうです。私の場合、自分とは異なる背景を持つ役をいただくことが多い気がしています。そして私たちの個性が合わさって化学反応のようなものを起こすことで、みなさんに個性的だと映るんじゃないか。そう考えています。
──ご自身から遠いキャラクターを演じることは、奈緒さんにとってどんな意味や意義があるのか知りたいです。
私自身が何かを選んだり判断したりする際、自分が何を大事にしているのかが、その判断材料になっている自覚があります。たとえば、映画や登場人物に対する好き嫌いだってそうです。私は役者として、会話によってコミュニケーションを取ることを大切にしているとお話ししました。そんな私の前に、コミュニケーションを取ることに消極的な映子のような人物が現れたとき、判断の軸が一つだと私は彼女のことをよく知ろうともしないまま、苦手な人間だと決めつけてしまうかもしれない。でも私がほかの判断材料を持っていたなら、彼女に対する印象は変わると思います。“おしゃべりは苦手だけど積極的に会いにきてくれた”とか、“約束は必ず守ってくれる誠実な人”だとか。こういった判断材料を持っていれば持っているだけ、他者との関係性を構築できる可能性が広がると思うんです。
──なぜ奈緒さんがテーマやメッセージを背負うことが多いのか、そして個性的な役どころを演じることが多いのか、少し分かってきた気がします。
自分から遠い役をやることは、私自身の価値観を耕すこと。いつかはうまくいかなかった関係性も、いまの自分ならいいものを築けるかもしれない。そんなことをよく考えています。そしていつかは、ただ純粋に、優しい人になれたらと思います。




