世界で支持される人気作曲家が語る、活動で最も大事なこと
澤野弘之が「自分だからこそ」の道で目指す地点 20周年を迎えなお走り続ける原動力とは
2025.05.27 18:30
2025.05.27 18:30
満足してないからこそずっと続けられている
──5月31日に行われるパシフィコ横浜での「SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE “A=Z”」にSennaRinさんやReiさんも出演されますが、他にも多彩なボーカリストがラインナップされています。ご自身が惹かれるボーカリストの共通点はあると思いますか?
普段聴く洋楽とかだと好きな声の傾向がある程度あったりするんですが、制作でご一緒する時は好きなタイプの声の方とご一緒する時もあれば、「この人とご一緒したらどういうことになるんだろう?」という好奇心が大きい時もあります。だからこれまでnZkを中心にご一緒してきたボーカリストの方のタイプはかなりバラバラで。でも皆さんに共通して言えるのは、僕のプロジェクトに関わる際に、楽曲に対してどういうボーカルを乗せるのがいいかっていうことを第一に考えてくださるんですよね。音楽に寄り添う柔軟性を持っているということはボーカリストとして活躍するために大事なのかなと感じました。
──2025年はこのnZkのアニバーサリーイベントがあると同時に作家20周年の年でもあります。率直にいかがですか?
あっという間に20年経っちゃったなっていう感じですね(笑)。自分が聴いてきた作曲家やアーティストの方のキャリアを見てみると、デビューから20年間の間で作った曲がその後の活動にとって大事なんだろうなって思うんですよね。ベテランの方がライブをやって、そこで新曲を聴きたい方ももちろんいると思いますが、デビューから20年の間に作られた曲が持っている熱に惹かれているお客さんが多い気がしていて。だとすると自分はそういう代表曲を作れたんだろうかって気になるんですよね。もちろん個人的には1曲1曲納得がいく曲を作ってきていますが、客観的にはどう思われているかわからないので。でも幸いなことにいろいろな作品に関わらせてもらったからこそ活動が続けられていると思うので、改めて運が良かったと思うのと同時に、作品や参加してくれたボーカリストやミュージシャンの方たちに感謝しています。
──澤野さんは長らく第一線で活躍されていますが、作家人生において大事だと思うことは何ですか?
ブレないことですかね。もちろん状況によって考え方や音楽の好みは変わっていると思うんですが、活動を始めた頃から大事にしていることは忘れてはいけないと思うんです。根本の部分が変わってしまうと音楽もぶれてしまう。あと、何よりも続けていくことが大事かなと思います。何かがうまくいかなくてどこかで諦めたり、嫌気が差して辞めちゃったらそこから先の部分が見られないまま終わってしまいます。続けてきたからこそ、意外なところでの反響を知ることができたりする。向かっている目標にはまだまだ到達できていないっていう悔しい気持ちは今もあり、辞めちゃったらどこまで近づけるのかもわからないので続けるしかないと思っています。
──どんな目標なんでしょうか?
大きい括りになってしまいますが、自分の音楽をより多くの人に聴いてもらうことですね。自分が音楽を始めるきっかけになったASKAさんや小室哲哉さん、劇伴を作る方にもたくさん影響を受けましたが、そういう方たちと肩を並べたいというよりも、自分だからこその道を歩んで、いろいろな人たちに自分の音楽を認識してもらって「良い」と思ってもらえることを目指しています。まだまだ達していないと思うことが多いので、今後その目標に向けてどれだけのことができるのかなと思っています。

──その目標が続ける原動力になっているんですね。
そうですね。悔しいから続けられているんだと思っています。どこかで変に満足してしまったらやる気が起きなくなっちゃうかもしれない。満足してないからこそずっと続けられているというか。「次の曲こそは」「次の作品こそは」という気持ちで常に向き合っていることが大事かもしれないです。
──その気持ちを継続することは並大抵のことではないと思います。今まで心が折れそうなことはなかったんですか?
ここ20年ずっと「思うようにはいかない」っていうことばかり感じているんですが、完全に折れていたら辞めていたと思います(笑)。「これだ」という確信を持った作品を出した時、自分が望んでいる反応が来るかというとそうではありません。その繰り返しですね。でも時間が経ってから海外とかで反響が生まれていて嬉しかったりする。その都度そういった喜びがあるから、完全に折れずに信念を貫いてやっていこうというエネルギーが保てているのかもしれません。
──活動の中で一番テンションが上がる瞬間はいつなんでしょう?
ライブでもテンションが上がる瞬間はありますが、曲を作っている時はテンションが上がっているんじゃないですかね。デモを作っている時って、これをのちにレコーディングしてボーカルが乗ってというような期待とイマジネーションを広げた気持ちになっているので。その高揚感からまた新しい曲を作りたいと思うのかもしれないです。
──ずっと精力的に活動されていますが、リフレッシュしたいと思うことはありますか?
休みは普通に取っていますね。でも趣味がなくて、息抜きとして映画を観たり、音楽を聴くんですが、「この曲かっこいいな」とか「こういうアプローチ次の曲でやろうかな」って思っちゃったりして結局仕事に繋がってしまうんですよね。リフレッシュのつもりがインプットの時間になってしまうという(笑)。それよりも音楽活動の中でたまに得られる評価とかがちょっとした喜びになり、リフレッシュに繋がっているのかもしれないです。
