上田誠が追求した面白さを構成するさまざまな要素とは
魅惑の無重力舞台にSFエンタメ全部盛り!?伊藤万理華主演『リプリー、あいにくの宇宙ね』開幕
2025.05.07 18:00
2025.05.07 18:00
上田誠ワールドに見事に馴染むキャストたち
さらに今作は、かもめんたると男性ブランコという、今をときめくお笑いコンビが2組もカンパニーにいるというのが大きな特徴でもある。2組とも過去の上田誠×ニッポン放送作品に出演経験があるが、この2組をオファーしている理由について、会見で上田は「日本でコメディをやる上では、芸人さんの世界は切っても切れない感じがある。でも演劇的な面白いことと、芸人さんの笑いはどうもすれ違うなと思っていた中で、ようやく本当に出会えた2組」と語る。
上田が全幅の信頼を寄せ、且つよく理解している2組だけに、本来の個性と面白さが最大限そのまま活かされた形で舞台上にある……そんな印象を受けた。たとえばかもめんたるは、実は上田とは長く深い付き合いとか。かもめんたるの劇団形態「劇団かもめんたる」を観ているとよくわかるのだが、舞台上で岩崎が槇尾を少しサディスティックにいじるくだりというのがある意味おなじみのシーンとなっていて、これはかもめんたるのコンビ2人の少し特殊な関係性が作品に出ているがゆえ……という理由がある。今作でもその関係性が見えるシーンがあり、劇団かもめんたるや彼らをよく知っているとさらに笑えるという仕掛けに。

上田は会見で「演出は僕なんですけど、槇尾さんは“う大さんの役者”っていうイメージがあるから。槇尾さんを演出しているう大さんを僕が演出してるっていう感覚」と語っていたが、よく知っている関係性でないと言えない言葉だろう。
また、上田が「ヨーロッパ企画の公演を以前から見てくださっていて、多分もともと演劇寄りの思考を持っている。なおかつお笑い芸人としてスキルが足されている、シンプルにコメディ役者として最強の2人」と語る男性ブランコの2人。オロオロして翻弄されるロボット役の浦井と、アクの強い科学主任役が見事にハマっている平井と、こちらも普段の彼らのキャラクターから大きくイメージが離れないまま、上田誠作品の世界にすんなりと馴染んでいる。

他にヨーロッパ企画から参加している石田剛太、中川晴樹、金丸慎太郎の3人は、勝手を知る上田作品だけに舞台全体のトーンをしっかりと安定させる存在に。また小劇場界の“飛び道具”野口かおるは、驚くほど通常営業の野口かおる、いやむしろ個性倍増し、という感じだろうか。それでいて、これまた作品に馴染んでいるのが面白い。

「あいにくの宇宙」で翻弄される登場人物たちの姿に笑って、ドキドキして、そしてちょっと自分たちの未来についても考えさせる……そういう部分もまた、 “SFらしい”今作。元ネタとなっているSF作品が隆盛した時代からいい感じに時間が経ち、懐かしさと新鮮さのバランスがちょうど良くなった令和の今だからこそ、実現できた作品なのかもしれない。

