2024.12.07 18:00
2024.12.07 18:00
やっぱり「メタ」だとは常に伝えたい
──「それだけ」は17歳のときに作った曲がもとになっていて。そのぶんよりピュアな感じはしますよね。
宮崎 これで終わらせちゃ今の自分の否定になる気もしたので。
──逆に「それだけ」を今このタイミングで入れようってなったのはどういうことだったんですか?
宮崎 やっぱり恋盤だし、その時の自分がちゃんと恋というものに向き合って書いた曲を入れたかったんです。高校生の時から追憶の恋に寄せて曲を作ることはあったんですよ。「風のもくてきち」とか。でも「それだけ」はその時に痛い恋をして、その弾みで衝動的に書いたっていう意味でいうと、初めてちゃんと書いた真のラブソングだったので、これは礼儀的に入れるべきだなと思ったんです。恋盤に「それだけ」が入らないならもう二度と入らないなと思ったから、そのままの形で入れたいなっていう。拙い部分は残っていますけど、やっぱりメロディがきれいですよね。これは10代の頃特有なんですけど、「夜間飛行少年」しかり「それだけ」しかり、高校のときに一発で弾き出したメロディはその時の偶然性も相まってきれいなんですよね。それはちょっと悔しいなとも思いますけど。
──これは当時バンドでやってたんですか?
宮崎 やってました。破壊的なサウンド感で(笑)。そのときシューゲイザー大好きだったんですけど、でもシューゲイザーができなかったんですよ、足下(エフェクター)がなくて。アン直(アンプ直結)で、大きく弾けば大きな音が鳴ると思ってたんですよね(笑)。薫に「シューゲイザーやりたいんだよね」って言っても「今のままじゃできないよ」っていうので、じゃあ大きな音出そうよっていうので、ライブの最後の爆弾みたいな曲になってました。歌詞を見るとちゃんとラブソングなんですけど、ライブでやり始めてからは、ラブソングとしての性質をちょっと失いつつあった。
──なるほど。
宮崎 今それをちゃんとパッケージするとラブソングになるんだなって思いましたけど、それでもちゃんと「でかい音鳴らそう」っていう気持ちで作りはしました。いい塩梅だと思います。もっと破壊的なサウンドにすることもできたんですけど、それは高校のときの思い出がいちばん美しいと思うので。きれいに、かつギリギリできるところまでは導いてあげるっていうのが、「大人になったな」っていう。
──これを爆音でノイジーにやるっていうのはそれこそ10代っぽいですもんね。
宮崎 そうですね。なんかちょっとそれは寒いなと思って。求められてはいると思うんです。高校生の時からのファンの人がこの音源を聴いたら「もっと欲しいな」って思う人もいると思うんですよ。でもそれも変わっていくよねっていうので。
──だからこそ「それだけ」では終われず、「せいかつかん」を書いたんですね。
宮崎 たぶん曲を思いついた順番でいうと「せいかつかん」が最後ぐらいなんですよ。で、聞き心地がいいだけの曲で終わらせたくないっていうので、最後40秒に仕掛けを入れて、自分の歌だけはみ出るっていう。その仕掛けがおもしろいし、この恋盤の最後の曲としてすごくふさわしいなって。ただで終わらない感じがあっていいんですよね。
──「それだけ」がわりと個人的な感じがする曲だけど、そこから「せいかつかん」でちょっとバンドが帰ってくる感じがあるじゃないですか。それもすごくいい終わり方なんだけど、かと思いきや突然歌だけになり、しかもそれが意外と長く続くっていう。
宮崎 で、そのまま終わるっていう。この曲好きです、歌詞も含めて。
──歌詞に〈(ここ歌詞誰か書いといて!)〉というメタなフレーズがいきなり入ってくるのもおもしろいし。
宮崎 やっぱり「メタなんですよ」っていうのは再三言いたくて。これは常に伝えたいんです。あと、やっぱりこの曲はすごく自分の中で嘘をついてない。主人公の性別こそ違えど、自分が持っていた閉塞感とその外の世界への期待っていうのが現実と夢の中の対比で描けているなって。内気だった自分が外に出ていくのか、それとも内なる世界にやるべきことがあるのか。っていうのを「潜水艦」と「生活感」をかけてうまいことできたらなあと思って、この曲はずっと歌詞書いてましたね。
──この最後の2曲はクジラ夜の街のここまでの変化や成長を物語っている気がしますし、「ここからも変わっていきますよ」ってことを言っている感じもしますね。ヒットを目指すみたいな話もありましたけど、この変化の先にそういう景色があるのかもなっていう気がしますよね。
宮崎 結構自分もそっちのフェーズに行きつつありますから、ヒットは引き続き狙いつつ。今は楽しいですね、すごく。自由になっていってるなあと思います。次の作品を早く作りたいですね。まだコンセプトは決まってないんですけど、何となく見え始めているかもしれない。絶対出すんで、来年も。また驚かせられる曲を作りたいです。