2024.11.18 18:00
“新東京”に決めたことで定まった方向性
──「新東京」って「東京事変」と同じぐらいぶち上げ系の看板じゃないですか。誰かがきっと考えてはいるけど、その看板を掲げることにビビった名前でもあると思うんですね。これぶち上げたのがまずかっこいいし、パンクだよねって思います。
杉田 ちょっと若かったですね(笑)。そんな想像はしてなかった。
田中 葛藤は一応あって。ひょっとするとものすごいダサいんじゃないかみたいな。でもこれをかっこいいと思ったらものすごいかっこいいじゃないですか。だからもうかっこいい曲をやるしかないってなりましたね。
杉田 確かにめっちゃダサいっていう案と、めっちゃかっこいいっていう案が両方ありました。徐々にみんな着眼点を変えていって「やっぱかっこいいわ」みたいな方向に持っていった感がありますね。やっぱり横文字とか最初は憧れるし、「新東京」ってちょっといぶし銀感あるじゃないですか?
田中 競ったのなんだっけ?
保田 「水道ピーナッツ」っていう。
大蔵 「新東京」になるか「水道ピーナッツ」になるか。
杉田 だから僕は「新東京」を推したんです(笑)。
──そこまで来てたんだ(笑)。
田中 最初ネタで出したつもりがね(笑)。
──「水道ピーナッツ」っの考案者はどなたで?
田中&保田 僕ですね。
──そこも争ってるんだ(笑)。でも今名前がついてきている感じがします。「Cynical City」で最初知って「なんだこりゃ!」って思って。細かい話ですけど、音のダダダって中にめちゃくちゃ綺麗なシンバルのカップ・ショットが後半に入ってるところとか、ここまで来たんか、みたいな感覚を覚えたんですけど、「新東京」って名前もあって、現在の東京が“現東京”とするなら新しい東京のサウンドトラックを聴いているような気分になったんですね。歌詞にもちょっと啓蒙的な「目を覚ませ。旧東京の民よ」みたいなニュアンスも感じるんですけど、バンドの世界観みたいなのはそういう意図で作り上げていったんですか?
田中 最初は“現東京”に対する啓蒙的な意見とか、そういうものから始めたわけではないんです。本当にただ楽器うまいやつが集まったから、たくさん弾いてかっこいい音楽作ろう!みたいなのが始まりでした。でも今は、曲調だけじゃなく、歌詞もEPやアルバムごとにテーマ・コンセプトをしっかり決めていこうってなってきて。
杉田 ファーストアルバムは『NEO TOKYO METRO』っていうタイトルにしたんですけど、ここに来て自分たちの名前を冠するっていうプレッシャーがあるじゃないですか。なので、僕たちの考える理想郷とか世界とか、そういうものを最大限見せられるものにしようっていうのがあったりして。そうなってくると、作詞の面で言うと現状に対するいろんな啓蒙だとかそういうものが溢れてくるので、余計に最近増えてきたんじゃないかなと思ってますね。
──その方向性は具体的にどのあたりからメンバー間で固まってきた感じがありますか? 今後も変わっていくと思うんですけど、“新東京の音楽らしさ”というか。
杉田 詞で言うと僕はこのバンド入って初めて作詞を手掛けたんですけど、根底にある世界観はずっと変わってないですね。東京の街の冷たさとか、排他的なところとか、後は心の中で無限に広がっていく感情の負のサイクルとか、そういうところを赤裸々に語っていったりとか、写実的に描写していったりとかっていうところはずっと一緒なので、最新作の中にも同居してますね。視点がミクロになろうが、マクロになろうがそのテンション感はずっとある感じがします。
──確かに歌詞にはそんな東京に対する通念的な何かがあるような気がしますね。言葉の使い方とかも、いわゆる文学性のある歌詞ともまたちょっと違うニュアンスだと思ったんですけど、さっきのルーツの話で、キリンジの「エイリアンズ」に触れたのも結構早い段階ですよね。
杉田 そうですね。高校生の時にMVとかいろいろ見てて、サムネが結構インパクトあるじゃないですか。失礼ですけどおじさん2人が座ってて、めっちゃ再生されてて。その時流行ってた煌びやかなサムネイルとかある中で、「おじさん2人が座ってる動画がなんでこんなに見られてるの?」っていう入り方だったんです(笑)。めっちゃ衝撃受けて。
──「エイリアンズ」はいまだに歌詞の解釈ってされてますもんね。
杉田 味わい深いです、非常に。
──しかも本人たちが正解を語ったことはまだなくて。
杉田 そうですね。その奥ゆかしさがいいですよね。
──そういえば、「#Vaporwave」って曲で「ジベレリン」っていう単語を初めて知りました。
田中 マスカットを品種改良して超うまくしてるっていう。ジベレリンって薬に埋めてやるとパンパンになってでかくなって、種もなくなるので消費者好みの味になる。冷蔵庫で冷え切った巨峰を尻目にシャインマスカットを頬張るっていう状況を描いてます。大量消費のテーマの中に、そういう単語とか入れていって。
──保田さん、口ポカーンとしてますね(笑)。
保田 ジベレリンってなんだ?って思ってたので(笑)。
──成長促進剤ですよね。人間好みになるような要素だけを抽出して、それを爆発的に促進させる薬っていう。まさに新たなEPのところで語っていらっしゃいましたけど、牛にVRで草原見せるみたいな。でも最近、有機物だと論争の的になりますけど、無機物に対してもえげつないことだらけだったりしますもんね。そういう、最近考えていることを4人で共有することって多いですか?
杉田 多いよね? やっぱりテーマとかはトシが持ってくることが多いですね。遠征の車とかで。それこそ今は「メタ」とか次元とかについての作品を作ったんですけど、その話も大阪に行く車の中で、議論が生まれてワーワー言い合って。「これテーマにしても面白いね」みたいな話をよくやってて。それがだんだん形になっていくみたいなのが多いんですよね。
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