2024.04.11 17:30
2024.04.11 17:30
講談界のためになるなら自分を選んでくれなくてもいい
──伯山さんはラジオでも気になると何回も収録し直すとのことですが、ご自身の「録音された声」への意識が日常から割と高い方なのでは?
それはあると思います。だから中には、素人の声でも一発録りで、はいOK、というような監督もいらっしゃると思うんですよ。でも塚原監督はそうではなくて、納得がいかないと何度も撮り直したいというスタンス。私も全く同じスタンスなので、そこは良かったなと思います。そこがずれていると辛かったと思うんですよね。素人だからこそ時間はたくさんかけて、素材をいっぱい録って成立させる……という方向性は合致していましたから。
──通常、アニメのアフレコは複数人で行うことが多いですが、1人で行われたんですか?
そうです。掛け合いとかは絶対できないなと判断されたんでしょうけど(笑)、私もそれで良かったです。自分ができないことよりも、相手を待たせることがもっと苦痛ですから……お相手の仕事に差し障りますからね。だから1人でやらせていただいたのはありがたかったです。
──今回の「縁」を繋いだ坂本頼光さんも出演されていますしね。頼光さんは活弁士であるだけでなく、ご自身でアニメーションを作ったりとちょっと特殊な活動をされている方ですが、ラジオでこの『クラユカバ』のことを話されるとき、坂本頼光さんの説明を丁寧にされていたのが印象的でした。
これは塚原監督とも共通しているところなんですけど、おすそ分け……というと大げさですが、私たちは「自分の好きなものを共有したい」という願望があるんでしょうね。塚原監督はこの映画をご覧になったらわかるようにレトロ的な世界観とか、あと監督も私も好きな岡本喜八作品のような昔の映画作品とか。そういうものを皆さんと共有したい。そういえば以前、ラジオで「浅草のストリップが面白い。偏見があるかもしれないけど女性はぜひ行ってみて欲しい」と話したら、それを聴いて実際に行ったという方がメールをくださったんですよ。それがすごく嬉しくて。そういう、もしかしたら世間的には偏見で見られているものもあるかもしれない、でもそういうものをひっぺがして見たとき、ちゃんと「いいものはいい」と言いたい。そんな思いがあります。
──多分その「自分の好きなものを共有したい、伝えたい」というのは伯山さんが講談に関して今メディアに出たりして活動されていることと根は同じですよね。
そうですね。
──そういったことを積極的にやられてきて、ご自身としては「世間の変化」について感じることはありますか?
何年か前なんですけど、二枚目のタレントさんがある企業のCMで講談師の格好をしているのを見て、とうとうこの時代が来たか! と思いましたね。つまり、何の前情報もなくそれをやっても「講談だ」と理解できるから成立する事態なわけです。これはテレビなどマスメディアの影響が強いでしょうからそれはありがたいですよね。あと他にもお笑いの方が講談について語ってくださったり、講談師のマンガが出てきたり、友近さんがヒール講談やったり。ああいう派生が広がっていることを知ることで、手応えは一歩一歩着実に感じてはいます。
──「ヒール講談」も!
いやもう、ありがとうございます、という感じです。
──ただ、これは伝統芸能に関わる方々皆さんが共通で持っている悩みだと思うんですが、読み物の歴史的、文化的な背景が聞き手に共有されていなかったり、テーマ的に通じるもの、通じないものが出てきてしまう。そういう部分で辛さを感じるところはありませんか?
これは自分の場合なんですけど、地方の公演に行くと、初めて講談というものを聴く人が当然いらっしゃるんですね。そういう方に「すごく面白かった」と言っていただくのがものすごい喜びになっている。だからお客様にちょっとチューニングと言いますか、東京の常連さん向けの会と、地方の「とにかく行ってみよう」という感じで来てくださる会とでは読み物を少しを分けていたりします。私の喜びとしては、全く興味がなかった人に、生で聴いたら面白かった、そう言っていただけることはとてもいい種の巻き方だと思うんですよ。だから「誰にでもわかりやすい読み物」を選ぶことは私にとって苦ではないし、でももし常連さんが「説明過多じゃねえか」って思うようになったら、他のそういう方が納得できるような講談師を聴きに行く、それでいいと思うんですよ。全体のパイの中で選んでねというか、別に自分を選んでくれなくても、講談界全体のためになるならいいなと。
そういう割り切りは強いです。ただ、自分は今40歳なんですけど、50歳や60歳になったとき、いわゆる“説明型ではない講談”にもっと向き合わなければいけないんだろうな、両方できなければいけないんだろうなという気持ちもあります。今後できるかはわからないですけど、そういうある意味不親切なネタもやる立ち位置になり、今の私の弟子や下の世代がもっとキャッチ―なものをやる……そういう繰り返しでもいいんじゃないかな、と思いますけどね。
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