2024.02.06 17:30
2024.02.06 17:30
ももいろクローバーZの高城れにが主演をつとめる舞台、パルコ・プロデュース 2024『最高の家出』が、2024年2月4日(日)~24日(土)に東京・紀伊國屋ホールにて上演される。2月4日(日)には、初日に先立ち公開ゲネプロと記者会見が行われた。
結婚生活に疑問を感じ、家出をした立花箒(たちばなほうき/高城れに)。道中で無一文になり途方に暮れていたところ、出会った藤沢港(東島京)に「住み込みの働き手を探している劇場がある」と聞き、劇場を訪れる。そこではたった1人の観客のために、7ヵ月間をかけてひとつの物語を上演しており、箒は家出した港の代役を務めるハメになる。港に恋をしていた舞台の主演、蒔時アハハ(まきときあはは/祷キララ)は「相手役が変わるならやらない」とゴネるが、物語の幕は上がり、箒とアハハはチグハグな関係のまま芝居を続ける。
演劇と現実の区別がつかなくなっている芦川背中(板橋駿谷)、ひたすら働き続ける舞台監督の蝉川夏太郎(亀島一徳)、舞台上だけ雄弁な川名足鳥(重岡漠)、その弟でとにかく喋り続けている川名身軽(篠崎大吾)。箒は奇妙で愉快な面々に振り回されながら、次第に劇場での暮らしに心地よさを覚え、アハハとの友情を深めていく。そんなある日、劇場に箒の夫・向田淡路(むこうだあわじ/尾上寛之)が現れ、さらに港も戻ってきて……というストーリー。
まずは、今回単独での舞台初出演となる高城れにに拍手を送りたい。今作の作・演出をつとめたのは劇団「ロロ」を率いる三浦直之だが、ロロの作品をはじめ、彼の作り出す作品は平たく言ってしまえば「奇妙な人たちが奇妙な世界で物語を繰り広げる」ことが多い。
初日に先立ち行われた記者会見で、ロロの劇団員でもある板橋駿谷は「今回始めてご覧になるお客様も多いと思うが、ロロは基本的に荒唐無稽。今回もこれ大変だな、どうやってやるんだろう……と思っていたら、ロロにずっと出ている(劇団員の)篠崎大悟、亀島一徳、島田桃子と、ロロによく出演している重岡くんが、(稽古の最初から)わけのわかんない状態のキャラをあたかも普通のような顔でやってるのがすごいなと思ったし、それにみんながついていく様も素敵だなと思った」と語っていたが、板橋がこう感じるのだから初出演の俳優陣は相当大変だったのでは?……と思ってしまう。
かといって、「単なる荒唐無稽」ではないところが三浦作品の難しさだ。その奇妙な世界観の根底に流れているのは「ボーイ・ミーツ・ガール」をはじめとした“出会い”や、「人や街の歴史」だったりと、観る人の琴線を揺さぶるテーマやストーリー。それを伝えるためのリアリティと荒唐無稽な設定をどう身体に落とし込むか、が俳優に求められることとなる。
「家出の事情」を隠しながら、「一度入ったら二度と出られない劇場」に閉じ込められ、巻き込まれていく箒というキャラクターは、三浦作品の世界へ観客をナビゲートする役割を持つ。演じる高城れに自身はトップアイドルとしてずっと一線を走り続ける存在でありながら、舞台上にいる箒は「こういう人、どこか現実にいそう」と思わせる現実感と、繊細さとのバランスが絶妙な存在。高城れにだからこそ演じることができた役、といえるだろう。演出の三浦も会見で台詞覚えや対応の早さに驚いたと語ったが、彼女の女優としてのポテンシャルの高さが今作で見事に発揮されたと言える。
強制的に巻き込まれてしまったシチュエーションの中で、箒と周囲の人達が少しずつ変化していく様も見逃せない。ストレートプレイ初挑戦の東島京はどこか浮世離れした港役がハマっていたし、登場するなり絶妙なうざったさを観客に知らしめた箒の夫役・尾上寛之はさすがのキャリアと貫禄を感じさせる存在。ロロ常連組以外でも全てのキャスト陣が魅力的だったのが今作の成功の理由ではないだろうか。中でもこの劇場の唯一の観客である「珠子」の一人娘、アハハとの関係性は、リリカルな展開が得意な三浦の真骨頂と言えるだろう。ちなみにアハハ役の祷キララは、2021年に三浦直之が脚本を担当し(松本壮史監督と共同脚本)ミニシアター系中心での上映ながらも映画ファンの中で高い評価を博し話題となった映画『サマーフィルムにのって』にも出演している。彼女の好演にもぜひ注目してほしい。
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