関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第18回
人間の記憶は曖昧で脆い、リーアム・ニーソンが“遅咲き”ならではの魅力を放つ『アンノウン』
2024.01.21 12:00
2024.01.21 12:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画を語る連載『関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!』。第18回は2011年に日本公開されたジャウム・コレット=セラ監督、リアーム・ニーソン主演映画の『アンノウン』。
アメリカの植物学者であるハリス博士(リーアム・ニーソン)は、国際学会に出席するために妻と共にベルリンを訪れる。しかしホテルに辿り着くと、運ばれている荷物が少ないことに気づきタクシーに乗って一人空港まで戻ろうとする途中、交通事故にあって昏睡状態になってしまった。4日後、意識が戻ると身分証がない上に事故によって記憶が混濁している博士。しかし、妻との予定を思い出してホテルに向かうと彼女は自分のことを知らなかった。
『トレイン・ミッション』でもタッグを組んだセラ監督とニーソンの、サスペンスアクションミステリー。本作とニーソンの魅力を関根勤が語る。
第18回『アンノウン』
僕の知り合いの映画好きに「リーアム・ニーソンとジェイソン・ステイサムとドウェン・ジョンソン出演作にハズレなし」と言っていた人がいてね。僕もリーソンの出演作は全部観ていると思っていたけど、『アンノウン』だけは観ていなかった。最近観ましたが、面白かったですね。
本作は主人公が記憶喪失になって、自分が何者かわからなくなるところから始まる。すると徐々にわかってきて、奥さんと出席する予定だったパーティ会場に行くんだけど、彼の奥さんは「あなたはどなたですか?」って言う。さらに自分の名前を名乗る人間が代わりに彼女の隣にいて「君は何なんだ」って言われるわけです。そこから逮捕されそうになりつつ、逃げながら真実に近づいていくと、とんでもない陰謀が隠されていることに気づくんです。妻が「あなた誰?」って言うシーンは怖かったですね。あれ、彼女が脅かされてそういうことを言っているのか、あるいは本当に陰謀に加わっているのか、わからないんですよ。それがね、ドキドキする。
この映画は配役がいいですよね。主人公の名を名乗る男をエイダン・クインという俳優さんが演じているんですけど、この俳優さんたくさんの映画に出ていて、いつも悪い顔をしているんですよ。いかにもインチキくさいと言うか(笑)それと、奥さん役のジャニュアリー・ジョーンズが綺麗なんです。そして主人公に協力してくれるタクシードライバー役のダイアン・クルーガーがかっこよかった。
主人公と彼女が演じるジーナ、この二人の関係性も良かったです。映画は最終的にはね、まあハッピーエンドに近いというか。よくできた映画でした。一番怖かったのは、色々思い出しながら「お前はこんな奴だぞ」って言われて、主人公が「え、俺こんな奴だったんだ」って驚いて、そこから記憶がフラッシュバックのように出てくるシーン。あれは怖かった。「そうだったの〜!?」って(笑)本当に、真実がわかった時は驚きましたね。結局、人間の記憶って曖昧なんだなって。ショックによって思い込んでしまうと、色々なことを間違って覚えてしまう。記憶って脆いんだなって本作を通じて思いましたよ。
自分の正体がわからない・記憶喪失系映画は、やはり本当はどうなのか視聴者側もわからないから、(主人公と)一緒になって答えを探っていくのが面白い。僕も自分の記憶の曖昧さに驚いたことがあります。
小学二年生の時、廊下に立たされたんです。バケツも持っていた記憶があって、同じクラスの宿題を忘れた子も一緒になって立たされていた。僕の記憶的には立たされたのは1回で、しかも彼を一人で立たせたくないというか、守っているみたいな気持ちがあって、そういう“良い記憶”にしているんですよ。しかし、幼稚園からずっと一緒で家族ぐるみで付き合いのある女の子とクラス会で会ったとき、「関根くんさあ、よく立たされていたよね〜」って言われた。「えっ、よく!?」って(笑)ということは少なくとも2回、3回は立った経験があるってことなんですよ。
そして彼女は彼女で、立たされている僕が「可哀想だな」って思いがあったから、逆に回数を無意識に増やして覚えているのかもしれない。結局、記憶なんて全て覚えていられないでしょ? だから、「立たされた」ってこと一つだけ覚えているんですよね。
人間って、記憶を本当に自分の都合の良いように覚えているから。だから離婚裁判とかでも、お互いの言っていることが食い違うんですよ。そういう意味でも、やはり記憶を追っていくことって面白いですよね。
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