高畑勲と交流があった監督の考える日仏アニメの違いとは
『古の王子と3つの花』監督のミッシェル・オスロが意見する、アニメーション技術の過去と未来
2023.07.21 18:00
2023.07.21 18:00
日本のアニメーションに感じるもの
──高畑勲さんと交流があったオスロ監督の考える、日本のアニメーションとヨーロッパ、特にフランスのアニメの共通点や違いは?
日本のアニメーションの方がヨーロッパのものに比べて随分進んでいますよ。日本のアニメは私から見ると老若男女、世代を問わずみんなを惹きつける、そういうものがあると思っています。世界のアニメーターは“誰にでも届く作品”を作ることを夢に掲げていて、それを日本のアニメーションは実現していると感じます。
日本にはシリーズもののアニメ産業がありますよね。それも十分、世界に影響を与えていると考えます。少しシステム的過ぎると思う絵や、いつも同じ顔や姿をしているキャラクターも登場するし、目がまん丸すぎるのもあんまりだと思いますが(笑)黒目の真ん中に、白い丸が入っている、とかね。でも、それが世界中を魅了したんですよ! 日本の監督でいえば、湯浅政明監督は自由なグラフィックを満喫しているし、細田守監督はビデオゲームの手法を取り入れている印象が強いです。
フランスのアニメシーンも面白くなってきましたが、それらは私の監督した『キリクと魔女』(1998年)が発端だと感じています。あの作品が出る以前はフランスに長編アニメ映画はなかったから(笑)。今は数本の長編作品が毎年公開されています。時にはシナリオが少し弱いと感じるものもありますが、全体的には成長してきていると思います。特に『ペルセポリス』(2007年)や、『ジュゼップ 戦場の画家』(2020年)は素晴らしい作品でした。『ジュゼップ 戦場の画家』はどちらかというとイラスト的で、本当の史実に基づいた低予算の作品として、すごく上手くできている。とてもパーソナルな作品であり、小規模でマーケティングも全然していなかったけど高く評価された作品なんですよ。「自分がやらなくちゃいけない」という意思が、ちゃんとアニメで表現されている。だから、とても気に入りました。フランスの傾向としてはブロックバスターというよりも、そういう作家主義的な作品が多いです。テレビに関しては産業としてのアニメもありますが、日本のアニメに影響を受けて真似している印象です。僕はそういうものには興味がないです。
──これまでもフランスのアニメーションシーンの第一線で活躍されてきましたが、今後はどういった作品を世に出していきたいですか?
今後の予定では、2つの文明からインスパイアされた2つのプロジェクトがあります。それぞれ中編映画になると思いますが、1つは15世紀のイタリアを舞台に、そしてもう1つは中世を描きます。中編にはなかなか配給がつかないのが問題ではあるんですけどね……。現在進行中のプロジェクトは長編で、1時間10分くらいのアニメを用意しています。今、ここ、つまり現代についての作品で、平凡な郊外を舞台にしています。それもおとぎ噺として描く予定なので、自分にとって初めての試みであり、とても興味深かったです。テーマはとてもシリアスで、“ドラッグ”です。それでもファンタジー的な要素は失いたくないと思っています。最初は醜いと思っても、少しずつ美しいものも感じられる作品にしたいと思います。