関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第13回
松田優作の凄まじさを見る、今の映画が物足りない人におすすめしたい『蘇える金狼』
2023.05.28 12:00
2023.05.28 12:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画を語る連載『関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!』。第13回は1979年に公開された『蘇える金狼』。
1億円強奪殺人事件の犯人・朝倉哲也の表の顔は、一般サラリーマンだった。大企業の経理部に所属し、夜間大学卒・補欠入社のうだつのあがらない社員を装っているが、実は銃の扱いに長け、ボクシングジムで鍛練を重ねる裏の顔を持っている。そしてひそかに資本金15億円を擁する自社・東和油脂の乗っ取りを企てていた。監督を務める村川透は1978年から主演の松田優作とタッグを組み、様々な作品を手掛けてきた──。その中でも特におすすめの一作と唸る関根勤が、本作の魅力を語る。
第13回『蘇える金狼』
僕は原作者の大藪春彦さんの大ファンで、小説も読んでいたんですよ。でも『蘇える金狼』に関しては映画が先で、それがラッキーでした。エンディングはね、小説の方がいいんですよ。映画版は壮絶でもっと悲しいけど、小説版はお金持ってタラップを上がって振り向いた朝倉の歯が銀色に光って終わるんです。原作の方を先に読んでいたら、映画を観た時に「えーっ、勝手にいじんないでよ〜大薮さんの世界を壊さないでよ〜」って思っていたかもしれませんが、映画が先だったからどちらも先入観なく楽しめました。
『蘇える金狼』の素晴らしいところは、まず松田優作という日本でも数十年に一人の怪優の存在ですよね。叩きつけるような暴力性、開き直った時の声の低さと迫力。もうね、あれを出せる人って日本ではほとんどいないんじゃないかな。彼は実際に空手2段の有段者なので映画の中の動きや力強さにも説得力がある。昔は結構失礼な記者とか監督が彼に現場でぶん殴られているんですよ。だから、映画の朝倉の雰囲気はある意味で本物なんです(笑)。
そしてなんといっても、本作は悪役が日本の映画界のオールスターズ。まず市会議員の磯川役を演じているのが南原宏治さんでしょ? それと社長の清水役に佐藤慶さん、部長の小泉役を演じているのが成田三樹夫で、経理次長の金子役が小池朝雄さん。悪役をやらせたら超一流の俳優がズラーっと並んでいるわけです。朝倉と深い関係になる京子を演じた風吹ジュンさんも素晴らしかった。岸田森さんも出ていて、千葉真一さんと絡むシーンがあって最高ですよね。今の世代の方には馴染みがないかもしれないけど、小池さんといえば『刑事コロンボ』シリーズの吹き替えでも知られているし、成田さんも『ある殺し屋』(1967年)や『柳生一族の陰謀』(1978年)などあらゆる作品に出演している俳優さんです。成田さんに関しては「体も鍛えているし、素晴らしい俳優だ」って千葉さんも認めていました。『蘇える金狼』は、そんな“個性”のオールスターを監督の村上さんが見事にまとめてくれている作品なんです。
どんな物語かっていうと、主人公が会社を食い物にしている奴らを追い詰めていく。表の顔がうだつのあがらない会社員って設定も、『スーパーマン』のクラーク・ケントの悪いバージョンなんです。主人公がとにかく悪いんですよ。人は殺すし、自分の都合の良いように利用だけして、あとはもう証拠を消していく。ただ、そういう悪い主人公だからこその魅力がある作品なんです。やはり我々は「ちゃんと真面目に生きろ」って親に教育されてきたし、「公務員になった方がいい」とか、「一流のサラリーマンになれ」とか、真面目になっていくように社会や学校が仕向けるじゃないですか。ところが反骨心のようなものが、どこか人間にはあるわけですよ。それを上手く活かして起業して成功するっていう人は、そのエネルギーをそっちに向けられるけど、向けられないで悶々としている人っているわけですよね。それを映画や小説を通して発散できるんです。サウナと同じで整えてくれるわけですよ、精神を(笑)。
僕もね、普通の作品が嫌で鬱々としたりグロかったりする小説ばかり読んでいた時がありました。「自分、大丈夫かな?」と思いましたよ。そしたら精神科医の人が「そういうのを読む人は健全なんです」って。架空の物語を通して、浄化というか、それで抜けていくんですよ。なのでそういう意味では『蘇える金狼』はスッキリする映画です。
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