関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第12回
今まで観たことのない本当の恐怖が味わえた『ボーダーライン』
2023.04.09 12:00
2023.04.09 12:00
作品のエグみを際立たせる役者陣にも注目
主人公を演じたエミリー・ブラントがとても良い俳優です。若い頃の岩下志麻に、この役を演じてもらいたい(笑)。切なくて、美しくて、正義感があって。しかし、その正義感が国の大義の前では認められないんです。小さな個人の正義が霧散していく、あの悲しみと怖さと言ったら。彼女が儚くて爽やかだから、本作のエグみが際立つんですよ。ブラントはトム・クルーズと共演した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でも良かった。そしてチームリーダーを演じたジョシュ・ブローリン。彼もとにかく顔がゴツくて良い。
そしてなにより、アレハンドロ役のベネチオ・デル・トロがとにかくセクシー。最高にかっこいいんですよ。本作の続編『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のデル・トロも素晴らしかった。僕が今まで観てきた男の“三大かっこいい”が、『荒野の用心棒』のクリント・イーストウッド、二番目が『フロム・ダスク・ティル・ドーン』のジョージ・クルーニー、その次が『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のデル・トロなんです。この3人はとにかくセクシー。あとはもう少し前の世代だと『狼よさらば』のチャールズ・ブロンソンも良い。デル・トロは「すれ違っただけで妊娠してしまう」って言われているらしいですからね(笑)色気がすごいんですよ。あの役柄も哀愁があってね。彼には実は彼なりの復讐があって、アメリカ政府は彼の復讐心を利用している。自分たちでコントロールできるようにしているだけで、そこがいやらしいんだけど一応関係としてはWin-Winなんです。アレハンドロとしては、アメリカ政府が段取りしてくれるから、敵に近づけるっていう。いやあ、よくできた脚本だなあ。この映画、あの人たちを使わずにただ普通の人たちで攻めていって、麻薬カルテルを殲滅させるような映画だと、「まあまあ良かった」で終わる感じで普通なんですよ。しかし、そこの計画の根っこにある“真実”が肝なんです。
カルテルを扱う作品としては珍しくないけれど、その物語がFBIの女性がわけのわからない指令を受けて、わけのわからない作戦に向かわされるという観点で描かれるから、ものすごく怖く観られる。『エクスペンダブルス』みたいのだと「いけいけー!やっつけろー!」って怖さがないんですけど(笑)、その辺がこの映画の魅力でもあります。
麻薬カルテルものとか潜入捜査系の作品はもともと好きです。『インファナル・アフェア』とかね。カルテルものとしての『ボーダーライン』の魅力は、“角度の違い”にあります。映画のストーリーの運び方や目的が違うんです。本来のカルテル系映画って、カルテル同士が戦ったり、悪い奴を政府がやっつけたりするので終わるけど、本作は細かい作戦を正当化するためにものすごく込み入った策を講じて、それを実行する恐ろしさがある。なので、カルテルをやっつけるってだけではない、ものすごく怖いものがそこにあります。これまで観てきた映画の中で1、2を争う怖さでした。
とにかく本作の推しポイントは、デル・トロのセクシーさと行動力。そして主人公の、物語の恐怖を引き立てる高潔さ、その真っ直ぐ生きる姿勢。今まで観たことのない、本当の恐怖が味わえます。素晴らしいアクションシーンもあり、メキシコのカルテルの人たちが本物なんじゃないかってくらいの雰囲気もあって、とにかく怖い。そしてストーリーが抜群に良い。これはもう、びっくりしますよ。「正義ってどこにあるの?」って。だから、この映画を観て「自分だけは個人の中で正しく生きよう」って思いました(笑)続編の『ボーダーライン・ソルジャーズ・デイ』も怖すぎたので、3作目を早く作って欲しいです。