UK最高峰ロックバンドの9年ぶり来日公演を独自レポート
ただ“ロックンロール”だけが在る奇跡──アークティック・モンキーズが巻き起こした次元違いの狂騒
2023.03.16 17:30
アレックス・ターナー(アークティック・モンキーズ)2023年3月12日東京ガーデンシアター公演より
2023.03.16 17:30
これだけははっきりと覚えている。
“紛れもないロックンロールを観た、そしてそのロックンロールは名乗ることさえしなかった”
サマーソニック2014にてヘッドライナーを務めて以来、9年振りとなる来日公演、そして単独公演としては2009年の武道館以来、実に14年振りとなるアークティック・モンキーズの来日公演初日、東京ガーデンシアターでの出来事である。
まさに待望と言える今回の来日、踊る胸を抑え切れない筆者は当日朝、とある行列に並んでいた。渋谷パルコ地下クアトロラボにて開催されていたスペシャル・ポップアップ・ストアの整理券を入手するためである。無事に昼過ぎの入場チケットにてTシャツを3枚購入して事前準備は万端。ポップアップ会場では最新アルバム『THE CAR』をイメージしたカクテルも売られていた。
開演時間10分前に差し掛かったところで入場すると、爆音のBGMによる手荒い歓迎を受ける。しかも静謐であり耽美的な匂いも感じられた『THE CAR』とは裏腹のモーターヘッド「Overkill」やザ・ジャム「Batman Theme」やエレクトリックライトオーケストラ「Last Train to London」などといった先人達に敬意を評しつつもゴキゲンな選曲ばかりであった。
ついに場内は暗転。割れんばかりの歓声の中、メンバーが登場だ。オープニングナンバーは最新作より「Scluptures of Anything Goes」。冒頭の重低音は電子パーカッションより鳴らされ、細身のジャケパンにヘンリーネックのTシャツ、首にはスカーフ、そして目元はティアドロップのサングラスでキメたアレックス・ターナー(Vo&G)がゆっくりとタメを効かせた歌声を響かせ、曲後半ではそれをさらに引きずるかのようにマット・ヘルダース(Ds)が重たいドラムで応える。今回はメンバー4人にサポートメンバーを加えた最大8人編成によるステージであり、曲ごとに必要な音数でその編成が増減していくという形であったのだが、同期音源(リズム、上物、コーラスなど)は一切用いられず、全演目が生演奏と生声によるアレンジとなっていた。音源の「Sculptures〜」は生ドラム的な音が使われていない楽曲であったがゆえ、重厚な生ドラムの迫力に全身が、そして場内がビリビリと揺れているのを感じる。
一種の荘厳さすら感じさせるオープニングにどよめく会場、その空気を切り裂く様にタイトルコールもなしでマットが力強くドラムを1発。そこから雪崩れ込むのが「Brianstorm」なのだからもうたまらない。2007年のリリースから未だに世界中を熱狂の渦に巻き込み続ける正真正銘のキラーチューンが早くも投下されてしまう。イントロからもみくちゃになる前方エリア、そしてギターリフをシンガロングする声が場内に力強く響き渡る。シャツの襟をジャケットから出すという輩(やから)風のコーディネートが実にさまになっていたジェイミー・クック(G)のアクションもそれに乗じて激しさを増していく。バンドもオーディエンスも皆、この瞬間を心から待ち望んでいたのだろう。文字通りの嵐が過ぎ去った後はハネたリズムに呼応するニック・オマリー(B)のフレーズがセクシーな「Snap Out Of It」がプレイされ、MCへ。といってもMCらしいMCではなく、アレックスが“イェー!”とただ煽っていただけなのだが(笑)。
変則エイトビートの「Crying Lightning」ではサングラスを外し、律儀にジャケットの内ポケットに仕舞い込む仕草を見せるアレックスにまたもや割れんばかりの歓声。ふとステージ左右のスクリーンに目をやるとその画質はVHS風の粗さとなっており、近年の作風に寄り添ってのニクい演出であった。サイケな雰囲気のギターソロではこの間だけグッとテンポを落としての演奏となるなど、生楽器のみでの編成を存分に楽しませてくれる。
音源よりヘヴィさを増した「Don’t Sit Down Cause I’ve Moved Your Chair」はコーラス部の”Ooh, yeah yeah yeah”をオーディエンスと掛け合うように歌われ、「Four Out of Five」にいたってはシャープな頭打ちのリズムが先導する原曲よりもテンポを上げたアレンジとして生まれ変わっており、さらにはアウトロの一節のみ思いっ切りスローにプレイするなど、個人的には前作『Tranquility Base Hotel & Casino』の中で最もデヴィッド・ボウイが香る大好きな1曲であったのだが、その大胆なアレンジ力には驚嘆の一言であった。ブラック・サバス「War Pigs」のアップデート版とも言える「Arabella」の後はサポートメンバーが全員一時退場し、4人のみでファーストアルバムからの「From the Ritz to the Rubble」を貫禄たっぷりにプレイ。初期曲も如何なく今のムードとして聴かせてくれる。
続いては、歌い出し前のキメはどう合わせるのかと思っていたらアレックスの手振り(指揮者の様な動きで)で合わせるという微笑ましい一幕も観られた「There’d Better Be a Mirrorball」。曲終わりに天井のミラーボールが点灯し場内を照らし出したかと思いきや、おもむろにマットがスローなツービートを叩き出す。アレックスとジェイミーが互いに向き直り、歪んだリフをユニゾンする「Do I Wanna Know」である。前者が前半を締める役割だとすれば後者は後半への狼煙。再び声を振り絞ってのシンガロングでそれに応えるオーディエンス。これにはバンドも嬉しそうだし、何より、本当に楽しそうだ。そこからは原曲が持ち得るサーフロック調の雰囲気が現在の彼らによりフィットしていた「Do Me a Favour」やアレックスが早口で捲し立てる「Teddy Picker」など初期曲を惜しみなく連発。やぶれかぶれ気味に演奏された「Pretty Visitors」の”オトナの不良”感が特に印象的であった。
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