関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第11回
日本で洋画コメディがヒットしない理由を考えさせられる『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』
2023.03.12 12:00
2023.03.12 12:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画を語る連載『関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!』。第11回目は1989年に公開された映画『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』。
お金持ちの夫人相手に詐欺を働く英国紳士のベテラン詐欺師ローレンス(マイケル・ケイン)。いつものように詐欺を働き、列車で帰路に帰ろうとするとそこに現れたのは若手のアメリカ人詐欺師フレディ(スティーヴ・マーティン)だった。自身の詐欺の縄張りである南仏の避暑地に彼も向かうことを知ると「2人も詐欺師はいらない」ということで、ローレンスはアメリカ人女性をターゲットに、どちらが先に早く5万ドルを巻き上げるか勝負を持ちかけるのであった。
マーティンが出演したことでも知られるリメイク版『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』を手がけ、『スター・ウォーズ』シリーズのヨーダの声優としても知られるフランク・オズが監督を務めた本作。関根勤が主演のマーティンの魅力と、日本におけるコメディ映画の姿勢について熱く語った。
第11回『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』
『ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ』は、スティーブ・マーティンとマイケル・ケインの2人で、リビエラにいるお金持ちの女性をどっちが騙すかって競争をするんです。その競争がくっだらない(笑)。本当、よく思いついたなってくらいの嘘をつくわけですよ。マーティンが若手の詐欺師ということで、ケイン演じるベテラン詐欺師ローレンスが彼の仕掛ける攻撃を全てかわしていく。ケインの方は紳士さを武器にマダムを手玉にとって、とにかく品があるんですよね。彼じゃなきゃ、この役はできない。マーティン演じるフレディはどちらかというと下品というか、若手として手段を選ばないんです。雰囲気でいうと横綱vs新関脇みたいな感じ。「どちらが先に5万ドルを巻き上げるか」ということでストーリーとしては競技になっているから、映画自体ゲーム的な楽しみ方もできるわけです。どっちが勝つのか、ハラハラして観られる。すると、なんととんでもない、びっくりするような展開が待っているわけです。
この作品を観たきっかけは、マーティンが好きだったからですね。ケインも大好きだし。この頃は彼の全盛期に近い、一番脂の乗っている時代だったと思います。そして映画の舞台でもある高級避暑地のリビエラが、とにかく綺麗なんですよ。南仏で繰り広げられるおバカなドタバタってアイデアが良いなと思いました。これでニューヨークが舞台だと、セコセコした雰囲気になっちゃうから。本作は、好き嫌いがない映画だと思います。あまり観る人を選ばない。いろんな人が観ても同じように楽しめる映画です。マーティンが出ている映画ってそういう作品が多いわけですが、『愛しのロクサーヌ』も皆さんが観て楽しい映画だと思います。
マーティンの魅力としては、まず切れ味がありますよね。すっごくシャープな感じで、それでいてハンサムなんですよ。なので変顔をするとか、顔で笑わせようとしない。知的な感じがするんです。それに加え、思い切りの良い演技もできる。僕は『オール・オブ・ミー/突然半身が女に!』という、マーティン演じる主人公が半身女性になる映画を、コントで真似したことがあるんです。一生懸命やりましたが、動きがマーティンの6割くらいしかできなかった。片方男で片方女、というのを彼は歩き方で表現した。見た目で見ているのと、やってみるのとじゃえらく違って、できないんです。そういうことが彼はできる。あとは『スティーヴ・マーティンのロンリー・ガイ』とかは少し悲しい役ですが、ちょっと笑えるような作品で。そこでも、彼は自分の演技力で笑わせてくるんです。だからジム・キャリー的な笑わせ方とは少し違うというか、キャリーはどちらかというとパワフルですよね。力がすごい。マーティンはそれに対して、もう少しテクニカルな部分があるんです。アカデミー賞の司会をやった時も素晴らしかった。
マーティンに対するアメリカと日本での評価の違いにはがっかりしています。日本ではあまり評価されていないんですよ。僕、自分の本にも書いたことがありますが、マーティンの新作が日本で二週間しか上映されなかったことがあったんです。90年代だったかな、それに僕は「センスがなさ過ぎる」って怒ったわけです。ようするに最初から(ヒットが)期待されていなかったんですよ。そういうのが残念。その頃はもう日本にコメディ映画がないから。昔は喜劇ってもっといっぱいあったんだけど。『サボテン・ブラザーズ』も日本では当たっていなかったはずです。あの映画も素晴らしいですよ。あれは『7人の侍』をうまくアレンジしたような作品でね。今のアメリカでも、ああいうコメディはほとんどないんじゃないですかね?
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