オープニングを飾る「Up Song」日本語字幕付き映像も公開
Black Country, New Roadが迎えた変転期の記録──ライブ映像作品『Live at Bush Hall』とは
2023.03.07 12:00
Photo by Holly Whitaker
2023.03.07 12:00
“我々は変わった”という強調
ヴィブラートのかかったブリティッシュ・フォーク系な歌声、ジャズやカントリー等多彩な味を網羅しドラマツルギーを高めていくタイラーの曲は、一番「ロック」的にエモーティヴだ。スツールに腰掛けシャンソン歌手のようにアンニュイに歌ったかと思えば腕を高々と挙げてバンドを指揮する場面もあり、これまでのように真摯に演奏に徹するだけではなく、シアトリカルに見せる要素があるのは逆に新鮮。「Dancers」の高まりはハイライトのひとつだった。
対してマイク・スタンドをがっちり握り、直立不動の姿勢で歌うルイスの歌唱は、ある意味アイザックの「無表情&フラット」なスタイルに最も近いと言える。しかし普段サックスやフルートで情感豊かに「歌う」人だけに、ルイスの歌唱にシニシズムは一切ない。むしろ筆者は、「Across the Friend Pond」で一瞬引用される、フランク・シナトラで有名な「My Way」のフレーズやタイラーとの男女掛け合いも含め、今の彼のモードはオールドスクールなクルーナー系の堂々とした様式美と今風の混沌とした演奏との融合の追究にあるように思う。
メイ・カーショウも、まったく別の世界を作り出している。基本はピアノの弾き語りなのだが、かすかにビョークを思わせる「こそばい」歌声の美しさと繊細なメロディは、動物等をモチーフにした寓話/おとぎ話的なストーリーをてらいなく繰り広げていく。このピン!と立った内面の開示は実は勇気が要る。ジョアンナ・ニューサムあたりが好きな人なら直撃なリリシズムだろうが、一見可愛らしいようでいて、圧巻の「Turbines/Pig」での強いイメージ喚起力と直裁な言葉の訴求力も含め、エモーショナルな強い核が備わっていて見事だった。
それら三つの多彩で多才な個性をBC, NR Ver.2として集約していくのが、ヴォーカルこそ取らなかったものの、サウンド面で大きく貢献する残る三者だ。特に、ジョージア・エラリー(Violin)はメイとルイスと三角形を形成し、ミニマリズムやネオ・クラシックのマナーで寄せては返すさざ波のようなデリケートな隆起の基盤をがっちり織り成していたし、チャーリー・ウェインのドラミングはインプロ/前衛型のフリー・スタイルな後方支援からダイナモに前方で炸裂し観客を沸かせる爆音まで、非常にカタルシスに満ちていた。
先に書いたように、演奏曲目に限って言えば──使用できる機材の違いや細部のリアレンジ、楽曲選択を始め差異はあるものの──彼らが2022年を通じて演奏してきたものと同じ内容だった。しかし10ヵ月近くにわたりほぼ同じセットを繰り返してきた徹底ぶりは、それだけ“アイザックがいなくなり、我々は変わった/変わるしかない”という点を、2022年が何かの終わりであると共に始まりの年=一種のエクソシズムであることを強調したかったのではないか、と思う。
逆に言えば、それだけアイザックの欠落が残した大きな「穴」をバンド側も痛感しており、彼と彼の歌へのリスペクトで過去2作の楽曲を一時封印した2022年は、いわば「for the second time」(仕切り直し)の時期だった。そう考えれば、ライヴを通じワークショップしていったダイナミズムを真空パックしたファースト・アルバムと同じ形で、この1年の変転〜過渡期をドキュメントしておきたかった、ということなのかもしれない。
「The Wrong Trousers」を始め、別離──そのインスピレーションの起源は、アイザック云々ではなく個人的な恋愛や様々な関係の“終わり”だったのかもしれないが──を多くモチーフにしたこれらの楽曲は、アイザックへのはなむけであると共に新たな所信であるように思える。男女3人ずつの6人編成となり、いよいよ人気ドラマ『フレンズ』と同じ構成になっている現在の彼らだが、「Up Song」の盛り上がる歌詞を聞いているうちに、その根底に流れている変わらぬ友情を感じて胸が熱くなった。そこに心酔し付き合うかどうかは聴き手次第だろうが、筆者はこの、素晴らしい技量と感性の集合体の動き・変化をこれからも見守りたいとの意を強くした。
(Text by 坂本麻里子 ※一部改編)
BC,NR、それは永遠の友だち──「Up Song」日本語字幕付き映像も公開
さらに本日、『Live at Bush Hall』のオープニングを飾った「Up Song」の日本語字幕付き映像も公開された。クライマックスの「BC,NRは永遠の友達」という歌詞が印象的で、観客と一体になって歌い上げるバンドの姿からは、6人から成る新体制で新たなスタートを切った彼らの強い決意を感じ取ることができる。
なお、来月開催される初単独ジャパンツアーのチケット+Tシャツセットはすでに完売。東京公演も完売間近となっており、盛り上がりを見せている。そしてジャパンツアーを前に日本限定でCD化される待望の最新作『Live at Bush Hall』は3月24日にリリース。数量限定のTシャツセット、タワーレコード限定のトートバッグ・セットも発売される。