2023.02.16 19:00
2023.02.16 19:00
パニックで生まれたメタフィクション
──枝さんが監督された『豚知気人生』のアプローチはとても面白かったです。タイトルもリリック的で面白いと思いました。「豚」「知」という漢字をあてた理由は?
枝 タイトルつけるのがすごく苦手で、いつも急かされて、逃げ回って投げるみたいな感じなんですよ(笑)。仕上がってきて、景色が見えないとつけられなくて。劇中の本人たちは必死に生きてるんですけど、傍から見るとすごい間抜けというか、この人たち何やってるんだろうって、そこがちゃんと出ていればいいなって思って作っていたので、仕上がったときには本当に間抜けだなと思って。「トンチキ」って間抜けって意味もあります し、でもこんな間抜けな⼈⽣でもいいって思いたい、全て肯定をしたかったのが⼤きいです。タイトルを⾒たとき「なんじゃこれ」っていう印象が映画とリンクしてたらいいなと 思って決めました。

──秦さんはこう来るとは思わなかったんじゃないですか?
秦 そうですね。すごく面白いなって思いましたよ。「イカロス」という曲が枝さんを通すとああいう話になるんだって。僕自身、楽曲では「喪失」というところまでしか書いていないんです。その先にある「再生」は『豚知気人生』ももちろん、今回の3作のなかで描かれているから、こういうふうに「再生」を描くんだっていうのが面白かったです。
──秦さんが作詞家としてセリフ回しをどういった印象でご覧になるのかも気になりました。テンポもよく、ある意味、会話劇でもあったので。
秦 作詞家としてはあんまり見ないかもしれないですね(笑)。単純に会話として楽しみました。
──秦さん本人が出ていらっしゃるのも大胆なメタフィクションでしたね。メタ的にご自身が使われるっていうのは……?
秦 初めてだと思います。
──ああいったメタ的なのは、監督はやってみたかったんでしょうか?
枝 メロディーだけ先にいただいて書いたものが、歌詞が来て「すごいずれてる!」って思って。その3日後に上げてほしいと言われたので、自分の中でぐちゃぐちゃになったときに、秦さんのCDケースを割るっていうのが浮かんだんです(笑)。自分のなかで壊れちゃって、どうしようどうしようって。そのときちょうど⾃分の置かれた状況が似ていたというか……。色んな⼈間に巻き込まれ、振り回されてもう嫌だ!っていう、主⼈公と同じような気持ちになっていたんですけど、でも視点を変えればこんな⼈⽣もいいかって思えるかもしれない、というか思わせてくれ!という気持ちがすごくあって。なので、秦さんごと巻き込みたかったんだと思います。現場ではCDを割るシーンは、役者さんも「割っちゃっていいんだよね、ほんとに!」って話してて(笑)。
──割るのが渋川清彦さんっていうのが最高の流れでした。軽薄な親父の役が似合っていましたね。
枝 半分以上豚の声でしたからね(笑)。ずっと私の横にいてくださって、出ないのに、声だけでいてくださいました。
──そうなんですね。では、撮影の時も渋川さんも生でやりとりしながら。
枝 そうですね。録⾳部にセッティングしていただいて、⾒えないところに隠れる形で私の隣でお⽗ちゃんの声をやってもらっていました。
秦 へえ~。じゃあ現場にいらっしゃったんですね。
枝 「いてくれるんですか?豚ですよ?」って言って(笑)。
──あのお父さんの立ち位置が、ビル・マーレイとかがやりそうな感じというか。メタフィクション的な感じも含め。
枝 ⾃分のオリジナルを書くときって、⾃分の周りにいる⼈たちのエピソードをどんどん⼊れてしまいます。今回のお⽗ちゃん像とかも、⽗ではないですが⾃分の身内だったり。誰って⾔うのは⾔えないですが(笑)トイレットペーパーに「バイクほしい」って書きまくって嘆願したり、騙されて⾼い壺を買わされたり。こんなのどこに出せるのっていうエピソードも、フィクションのなかなら成⽴するので。いつか昇華したいものを⼊れました。
秦 妙にリアルだなと思いました(笑)。
枝 ⾃分もそれで結構楽しんでいました。本⼈たちにとっては悲劇なんですけど、側から⾒ると喜劇にしか⾒えない、そういった物語のキーとなる⽅として渋川さんに出てもらいたい、というのは最初からありました。地元が⼀緒なのもあるんですが、いつか渋川さんとやりたいという思いもあって。
次のページ