『はだかのゆめ』監督&主演俳優にインタビュー
甫木元空と青木柚が語る映画との距離──目に見えない、言葉にできない感情を表すには
2022.12.05 12:00
2022.12.05 12:00
映画には独りよがりな想いは決して映らない(甫木元)
──ドキュメンタリー的であるところと寓話的であるところの境界線が、あえて曖昧に作られていると思いますが、天候や運転に左右される中で、最初の設計図から変わった部分はありましたか?
甫木元 一番の未確定要素は祖父でした。役者さんと対峙した時にどういうふうになるかっていうのは、やってみないとわからないところだったので。ドキュメンタリーっぽい撮り方ではなく、カットを割って撮ったので、祖父にも他の役者さんと同じようにスタートをかけてやってもらいました。
──最も凄みを感じたのは、最後のおじいちゃんの独白のシーンだったのですが、あれはセリフですか?
甫木元 長年祖父と話していて、問いかけたら返ってくる台詞っていうのはなんとなくわかっていたので、こういう質問をしてくださいというのは伝えていました。
──なるほど。青木さんは俳優ではない監督のおじいさんと演技をするというかなり特殊な経験だったとは思うんですが、何か感じたことはありましたか。
青木 おじいさんと同じシーンの経験はとても大きかったです。一番近くで心情を吐露する瞬間を見ていたので、自分は今生きている人と話しているんだと感じました。自分は役がある状態でもあったし、演じるのってなんなんだろうなみたいなことも思ってしまいました。
藁焼きをしているところも見ていたのですが、そのような営みを感じることは紛れもなく生きている証拠で、自分が俳優として表現したいものはそれに限りなく近いものじゃないといけないなと感じました。
──まさに鰹を捌くシーンなど、所作一つひとつが非常に美しかったですよね。
青木 鰹のタタキをたくさんいただいて、美味しかったです。
──おじいさんにもインタビューしたいぐらいです(笑)。僕は本作の内容について、どうしても寺山修司の『田園に死す』を想起せざるをえなかったのですが、監督はご覧になっていたのでしょうか。
甫木元 はい。大学に入ってすぐぐらいですね、学科の教授が天井桟敷出身の方々で、半ば強制的に授業で見せられました。
──それは見ざるを得ないですね。『はだかのゆめ』も同じく母親に捧げた映画ですが、単純ではないやるせなさと明確な怒りや苛立ちという感情もポイントとして描いているように思えました。そのような意識はありましたか?
甫木元 主人公のノロという名前は、何事にも遅れる、ノロマなノロという意味です。映画自体も、何か事が起きてから撮影し、遅れる事が常というか公開するときには忘れられていたりする。今回僕自身の怒りや苛立ち後悔と遅れて真剣に向き合わざるを得ない状況の中、あらためて映画には独りよがりな想いみたいなものは決して映らないという現実を撮影を通して突きつけられました。その分わかりやすい怒りや苛立ちではなく後悔という見えない感情を人にどう見せるかというのは意識したところです。
ただ自分の中のどういった感情が入っているかというのはまだ客観視できていない部分ではあります。
──ありがとうございます。最後に、おじいさんの所作や喪失、自然の残酷さなど色々とあった映画でしたが、青木さんは、今後キャリアに本作はどういった影響を及ぼすと思いますか。
青木 土地の自然さだったり、自然な思いだったり、いろいろな「自然」を感じることができた作品でした。登場人物もセリフも少ないのに、こんなにもいろいろな思いが充満している作品ができるんだな、と作品を見て一番に実感して。いろいろな作品に出させていただいてますが、「感情の原体験」というか……シンプルに「人を思う」ことが第一に乗っていることが大事だと思いました。監督の映画づくりも、音楽もきっとそうだと思うのですが、いつまでも生きている人と人の間に生まれるものを大事にしながら、今後の作品に携われたらいいなと思っています。