2022.11.19 12:00
2022.11.19 12:00
ここまでひとつの役柄に長く向き合うのは初めて
──見上さんのキャリアを拝見していると、とてもいいクリエイターの方たちとお仕事をしているなあという印象があるんです。これまでで特に印象に残ったり、自分の考え方に影響したような現場はありますか?
そうですね……どんな作品でも毎回価値観や、考え方に影響されているような気がするんですよ。作品そのものからもそうですし、そこで会った人たちからも刺激をいただいて、自分も周りも日々すごく変化してるのを感じます。あえて言うならドラマ『きれいのくに』(2021年・NHK)は印象深かったです。
──脚本・監督が加藤拓也さんという今最も注目されている若手クリエイターということもありましたが、かなり物議をかもした挑戦的な作品でしたよね。
あの作品は私の演じた役を含めた高校生5人の物語と、吉田羊さんたちが演じる大人の物語と、大きく分けて二つの世界線があったんです。高校生キャストのみんなとは今でも集まるくらい仲良くなって、大人キャストの方々もみなさんすごく自然体で、現場の雰囲気がとにかく良くて。だから、力まずに居られた部分もあるのですが、作品や役について悩んで苦しい時もありました。
──え、それはなんでですか?
その時点で自分、なんかできてないな、というざっくりとした不安みたいなものがあったんですけど、撮影中に監督が近寄ってきて、「どう?」って聞いて下さったんです。「うーん、なんか違うな、できてないな、と思います。」と正直に伝えたら、「何個かその原因は見てたら分かるけど、それは自分で考えてきてみて。」と言われて。めちゃくちゃ悩んで胃が痛くなったりもしましたが、その後自分で気付いたことがあって。それが正解だったかは結局分からずじまいなのですが、そういう経験がなかなかなかったので貴重でした。
──それは大きな経験ですね。
監督たちからは難しい課題も突きつけられましたが、そこにすっごい愛があるのも感じたんですよね。「思っているよりも作品って世の中に残るんだよ」ということや、「この作品を見て作品自体もキャストも評価されて、みんな他の仕事に繋がったら嬉しいよね」ということも伝えて下さって。だから本当に頑張らなきゃなと思っていました。あと今までの映像の現場では、割と瞬発力が大事なことが多くて。自分で考えてきたことを一旦捨てて、実際のロケ地や相手役の方のお芝居、監督の指示にその場で反応していくということに重きを置いていました。『きれいのくに』のときも、それは変わらないのですが、ゆっくりとひとつの役に時間をかけて向き合ったり、リハーサルの中で色んなことを試せたり、という経験を初めてさせてもらえたのは、自分の中でも大きかったですね。
──そういう意味では、演劇はひとつの作品をじっくり時間をかけて作っていきますから、さらに役と向き合う時間が長くなりそうですね。
ここまでちゃんと長い時間、自分の役と向き合うのは初めてだと思います。映像はどうしても縫うように作っていくことが多いですけど、演劇は本当にこのことだけを考えていられる。すごくありがたくて、幸せな時間になるんだろうなという予感がありますね。