2022.09.18 12:00
2022.09.18 12:00
現代に通じる名作として、若い世代にも観てほしい
仲代達矢という役者を軸に考えて黒澤清映画との相違を考えると、小林監督の映画はそこまで観ていないので何とも言えませんが、当時の全盛期において、まず三船敏郎が出ているか出ていないかの違いがあります。そこにまず、映画の“カラー”の違いが出てくるんです。三船さんが出演していると、映画がエンタメ寄りというか、パワーがあって明るくて、ちょっとコメディっぽいところもあるんですよね。『七人の侍』みたいに。小林さんの映画だと、それがもっとシリアスになっている。ただ、テイストは似ていますよね。しっかり時代と人物を描くという点で。仲代さんはどの監督にも重宝されてきました。黒澤清の『用心棒』とか『椿三十郎』も良かった。割と彼は悪役が多かったんですよ。三船さんが(良い者の役で)いたから。ただ、『切腹』では仲代さんが王道な主役を演じられていましたね。
今の20代はもちろん、30代の人も時代劇を観てこなかったと思うんです。その世代の人が幼い頃は『水戸黄門』(TBS系)や『大岡越前』(TBS系)、『遠山の金さん』(テレビ朝日系)など、勧善懲悪で少しライトな作品が多かった。『暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)も、少し『仮面ライダー』的な観やすさがあったと思いますが、『切腹』はそれに比べてグッとテーマが深くて暗いから。
これは是非、全員に観てほしい作品です。こうやって世の中が変わるたびに犠牲になっていく人たちが出ることを、知ってほしい。明治になった時とか、もっといたんじゃないかな。徳川家の人たち、みんなあぶれたでしょう。
例えば山一證券が潰れたときはみんなでフォローし合えたけど、時代が変わる時なんて国はあたふたして、新しい方に注力するからフォローなんてできないんですよ。
お家断絶を描いた、この『切腹』もそうです。「あとは知らないよ」って徳川家は何もしてくれないから、こんなふうになって歪みとして表面化してきてしまう。がん細胞と同じですよね。それを浄化できる免疫力が世の中にあればあんなこと起こらなかったわけですよ。侍は不器用だし、働き口もなかった。貧困って辛いですよね。しかし、「貧困」という世界共通のテーマだからこそ、海外で評価されたかもしれない。本作は、シルベスター・スタローン主演の映画『ランボー』に少し似ているかもしれません。お国のために頑張ってベトナム戦争から帰ってきたら嫌われて……彼らはすごく嫌な目で見られてしまう。だからどうしても、そういう歪みができてしまうんですよね。