2022.07.19 07:00
自分を内観する旅はもう終わった
──そして今年1月。(東京は)LINE CUBE SHIBUYAで『25th→→→30th anniversary Live!!』が行なわれました。印象的だったのが、「いろんな旅をしてきましたが、今また改めて東京と出会い直して、東京にインスパイアされているんです」といった話をされていたことで。
うん。カナダに移って初めの数年は、家に水道やガスを通したり、ユンボに乗って開拓するのに必死だったからそれどころじゃなかったんだけど、生活が整いだして時間に余裕が出てきてから、自分のちっちゃな作業場で夜な夜な研究を始めたんですね。YouTubeやストリーミングで新旧問わずなんでも聴けるので、2020年のアニバーサリーを意識しつつ、最近の日本の音楽ってどんな感じなのかな?と。それでたまたま昔のAJICOの曲を聴いたことが再始動にも繋がったし。自分が離れていた20年くらいの日本のポップシーンがどんどんリンクして、「日本の音楽、おもしろっ!」ってなったんですよ。普段はアメリカとイギリスのポップがラジオで流れている環境で、子供もそういうのを歌っているわけだけど、そんななかで日本のポップを聴くと、「この独特さはなんやろ」ってなって。
──例えば、どんなアーティストの曲を面白いと思ったんですか?
今回のEPでコラボした方々の名前はまず挙がりますよね。若い方だと、Nulbarich、中村佳穂ちゃん、GEZAN。それからハナレグミ、くるりの岸田繁くん、Dragon AshのKjも、改めていいな、音作りと真摯に向き合っているなと思ったし。新しいバンドではTempalayがすごく好きで。AAAMYYYちゃんのソロも素敵ですよね。あと、Jラップの世界もようやく面白いと思えるようになったんです。KID FRESINOくん、環ROYくん、鎮座DOPENESS。まるで阿弥陀仏が口から飛び出している空也上人(くうやしょうにん。平安時代の中期に「南無阿弥陀仏」を唱えて人々に念仏を広めた六波羅蜜寺の開祖)の説法のように、言葉がとんでもないレベルで出てくる。
──そういった人たちの音楽から、改めて日本のポップ、東京のポップ、ひいては東京という都市とも出会い直すことができた。
受け入れる自分の姿勢が整ったんですよね。3.11があってから本当のことを伝えようとしないメディアを毛嫌いしていたし、そういうのもあって都市を離れたわけですけど、息子が東京にいて覚悟を決めて役者をやり、いろんな扉を開いていく姿を見て「かっこいいな」と思えたし、それで私が東京を否定するのも違うかなと思って。それに異邦人として行く東京はやっぱり面白いんですよ。国家のことは信用できないにしても、人は信用できるというか。それとあと、自分のエゴがまた出てきだしたところもあってね。UAなんて誰も知らないカナダの離島で子育てをしているなかで、「なんかまた無性にUAをやりたいっ!」ってなってきて。じゃあ、どういう表現をするんだって考えたときに、それは明白だった。自分を内観する旅はもう終わったんですよ。なので、「もうポップっしょ。ポップしかないっしょ」っていう。
──そうしてUAさんがいいと思った6組のアーティストとの共作EP「Are U Romantic?」が完成しました。このEPについては既にいろんなところで話されているでしょうから詳しくは聞きませんが、ひとつだけ。岸田繁さん作曲の『アイヲ』という曲で、「友達よ ご存知のように 歌で世界は救われない」と歌われています。歌で世界は救われない、変えられないというのは、ここまでやってきた実感なんですか?
かつての私は、もしかしたら変えられるんじゃないかと思っていたんですけど、やっぱりなんにも変わんないんだなっていう。だって、変えられるんだったら、ジョン・レノンが『イマジン』を歌った時点で変わっていてもいいはずじゃないですか。だけど、実際はむしろ酷くなっているようにも見える。人の欲望って歌の力ぐらいじゃどうにもならないんだなと。ただ、反対の言い方をするなら、人が歌をうたわなくなったときに人の世界は終わると思います。歌をうたうことができない状態というのは、終わりを意味している。それは言い切りたいですね。