映画『シンシン アンド ザ マウス』で“宝物になった時間”とは
「一度大切にしたものは、ずっと自分の中にある」岸井ゆきのが役に重ねる過去の経験たち
2026.07.07 19:00
2026.07.07 19:00
お芝居って気持ちがすべて──。岸井ゆきのは大切な宝物を慈しむように、そう撮影の日々を振り返った。
日本と台湾による合作映画『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』は、大切な母親を亡くした主人公・ちづみが、台北での旅と、そこで出会ったシンシン(ツェン・ジンホア)との交流を通じて、心のぬくもりを取り戻していく希望の物語だ。
前半は、ほぼ台詞なし。後半は、台湾人俳優ツェン・ジンホアとのお芝居がメイン。いかに岸井は言語の壁を越え、ちづみの喪失と再生に辿り着いたのか。「ずっと手をつないでいるという感じでした」と語る独自の芝居感覚。そして、少し意外なコンプレックスまで。役の人生を鮮やかに浮かび上がらせる表現者・岸井ゆきのの演技論と素顔に迫った。

言葉の壁はあっても気持ちはちゃんと伝わる
──台湾でのロケは、総勢40名の台湾チームに日本からのミニクルー8名が合流する体制だったと聞いています。コミュニケーションの面から国内での撮影とは全然違うものがあると思うのですが、やってみていかがでしたか。
台湾の助監督の方が、通訳もできるくらい日本語が堪能な方だったんです。なので、その方にサポートしてもらいながら、スタッフのみなさんともお話しさせていただきました。たとえば、DOP(撮影監督)のウェイン・ローさんとはエドワード・ヤンの話をして。撮影のない日に『ヤンヤン 夏の想い出』のロケ地をめぐっていたんですけど、私が調べきれなかったところをウェインさんが教えてくれたりして。映画を通してコミュニケーションをする、という感じでした。
今回、私がこの作品に参加する上で興味深かったのが、言語が異なるクルーと台湾で撮影をするということだったので、毎日が有意義だったし、充実していました。
──台湾チームの現場は、日本とまたカルチャーの違うところがありましたか。
台湾では、どんなに撮影が立て込んでいても、食事の時間が来たら食事を食べるんですね。温かいものを温かいうちに食べるということを大切にしていて。私も食が活力になるタイプなので、そこはすごくいいなと思いました。

──食事はどんなものが出てくるんですか。
それが毎日違うんです。デリバリーなんですけど、種類も豊富で、いろんな選択肢を用意してくださったので、それも楽しみでした。メニューは魯肉飯や台湾の地元の料理などがあって。何よりこういった撮影の現場で温かいものを食べられるということがありがたかったです。
あとは、休憩をしっかりとるところも日本とはちょっと違いますね。休憩中に、すごく大きなタピオカを飲んでいたりします。日本だと「休憩中には次の準備」ってちょっと周りの目を気にするところがあるじゃないですか。台湾のみなさんはリラックスするときは、ちゃんとリラックスする。メリハリがしっかりしているところが心地良かったです。
──初共演のツェン・ジンホアさんとは、どんなふうにコミュニケーションをとっていきましたか。
ジンホアさんは、よく台本にある台詞を抜き出して話しかけてくれました。たとえば、台本の中に「雨を待ちましょう」という台詞があるんですけど、実際に雨が降ってきたときに「雨を待ちましょう」と言ってくれたり。あとは「おいしい」とか「元気?」とか、覚えた日本語を使って一生懸命コミュニケーションをとってくれたところに、彼の誠実さを感じました。
お互い拙い英語と拙い中国語と拙い日本語で会話をしましたが、それでも気持ちが伝わるコミュニケーションができたというか。お互いをよく知るというよりも、今この瞬間を一緒に感じていると思えるコミュニケーションをとれた気がします。
──お芝居についてはいかがでしたか。
ジンホアさんは日本語の台詞を音で暗記していました。常に中国語の台本も持っていて、このシーンで何を伝えているかを逐一確認されていたんですね。言葉の意味そのものはわからなくても、何を伝えたいかは明確にわかっている。だから、ちゃんと気持ちが伝わってくるんです。言葉の壁はあっても気持ちは伝わるんだということが実感できて、そこにすごく感動しました。
気持ちそのものを受け取るという経験をさせてもらえたおかげで、お芝居って気持ちがすべてだよなと、改めて再確認できて私にとって宝物のような時間でした。
──そんなジンホアさんとのシーンで、特に心に残ったシーンを一つ挙げるとしたらどこですか。
後半のバーのシーンですね。シンシンがちづみのことを「小さいからいいんだよ」と言ってくれるんですけど、ジンホアさんが口にするとただただ誠実な言葉に聞こえる。あれはやっぱりジンホアさんだから出せる空気だなと感じました。
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