2025.05.26 18:30
2025.05.26 18:30
2年前の自分を褒めてあげたくなりました
──クランクインはどのシーンでしたか。
岸谷さんと初めて会うシーンです。その次が、岸谷さんが母親を刺し殺すシーンでした。
──いきなりハードなところから。
そうなんです。初日から山場がどんどん来て。逆にここを乗り越えたら自信がつくし、現場にも溶け込めるかなと思って、ハードなシーンだけど頑張ろうと思いました。

──初めての撮影現場。まず何が印象に残りましたか。
ずっと画面を通して見ていた世界のフレームの外を間近で見ることができたことに感動しました。いろんな業界用語が飛び交っていて、この一つ一つが映画のシーンにつながっていくんだなと思って、一人でずっとカメラを観察していましたね。
──言われてわからない単語とかありましたか。
わからない単語ばっかりだったので、私に向けられた言葉ではないものにもいちいち反応していました(笑)。「5フレいきます」って言われて「はい!」って返事したら、「佐知ちゃんじゃないよ」と言われたりして、ちょっと恥ずかしかったですね。わからない単語はあとで家に帰ってから調べたりして。緊張したけど、本当にいい勉強になりました。
──売春のシーンは演じる側としても非常に難しかったと思います。
緊張しすぎて心臓がバクバクしてたんですけど、同時にすごい喜びというか楽しみも湧いてきて、顔が真っ赤になるくらいワクワクしていました。自分にとっても初めての感情だったので、これはどういう気持ちなんだろうとちょっと戸惑ったんですけど、撮影が始まると自然と溶け込めたというか、役に入ることができたかなと思います。
──緊張に押しつぶされる感じじゃなかったんですね。
そうですね。緊張しすぎて、逆に楽しくなってきました(笑)。
──メンタルが強い。
ちょっとネジが外れちゃったのかもしれません(笑)。

©︎2025「金子差入店」製作委員会
──川口さんは自分の演技をモニターでチェックする人ですか。
1回だけ呼ばれて見に行かせていただいたんですけど、「これ、私?」って思いました。ちょっと怖くなるような暗い顔をしていて、自分じゃない自分を見ているみたいな、不思議な感じでしたね。
──本当に心が壊れているような表情をしていました。
試写会で見て、2年前の自分はこんないい演技をしていたんだって、ちょっと自分を褒めてあげたくなりました。
──特に、一瞬ふっと笑うあの顔が忘れられません。
私もあそこがいちばん気になったというか、鳥肌が立つものがありました。台本には、悲観な笑みと書いてあったんです。それが私には難しくて。そしたら監督が「意識しすぎなくていいから、好きなように笑ってください」と声をかけてくださって。でも単に笑うのは違うよなとか、すごく迷ったんですけど、撮影が始まったら、不思議と二ノ宮佐知に入り込んでいて、気づいたらあの笑みになっていました。
──役を生きる快感を、早くも味わったのかもしれませんね。
本当に楽しかったです。緊張していましたし、興奮もしていたけど、またあの気持ちをもう1回体験してみたいなと思いました。
──演じていて難しいと感じたことはありましたか。
監督から「佐知は、幸福とか喜びという言葉を一切知りません」と言われて。常にうんざりしたような顔で周りを睨んでいるのは、毎日楽しい私には結構課題で。よく鏡に向かって睨み合いっこをしていました。
──じゃあ、佐知を演じている間は、川口さん自身もメンタルが引きずられたり?
周りの人から「今日は体調悪いの?」と聞かれるぐらい、沈んだ顔をしていることがよくあって。撮影期間中は家に帰っても一切テレビをつけず。普段の自分がしていることを本能的に遠ざけているところはありました。

──主演の丸山隆平さんは、川口さんから見てどんな方でしたか。
明るくて、いつも現場を和ませてくれて、根っからの関西人だと思いました。撮影時期が冬だったので、寒くてずっと手をこすっていたんですね。そしたら丸山さんがカイロを持ってきてくださって。「どっちだ?」って両手を出したんですけど、右手から半分カイロが見えているんです(笑)。それで、私が「こっちですか」と右手を指したら、さっと左手にカイロを持ち替えて、「こっちでした」って。もう心の底から笑ってしまって、緊張が一気にほぐれました。
──丸山さんらしいエピソードです(笑)。
しかもビッグサイズのカイロだったんです。普通にカイロのほうが丸山さんの手より大きかったですね(笑)。そんな丸山さんの優しさのおかげで、私も自然な演技ができたので感謝しています。
──丸山さんのお芝居に対する感想も伺えますか。
お芝居に入ったら、ころっと表情が変わるんです。今回はすごい難しいシーンがたくさんあるんですけど、自分と向き合いながらお芝居をしている大先輩の姿を間近で見て、私もこれからこんな経験をしていけたらなと気持ちの高まるものがありました。
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