2024.12.07 18:00
2024.12.07 18:00
人に対する恋心だけがラブソングじゃない
──このアルバムは、本当に今おっしゃっていただいたような意味ですごくバンド感がある作品になった気がするんですよ。それはさっきからその話に出ている『青写真は褪せない』というEPとも印象が違うんですよね。とはいえあの作品はステップとしてすごく重要だったとも思うんです。『青写真は褪せない』から今回の『恋、それは電影』への流れはどういうふうに繋がっているんですか?
宮崎 個人的に『青写真は褪せない』っていうEPが音楽人生の転換点っていうぐらい重要な作品になっていて。全曲すごく自信がある作品だし、「音楽が始まったな」っていう感じがすごく自分の中でする革命的な作品だったので、このアルバムの制作もその名残を受けてすごく楽しむことができましたし……より真摯になっていった感じですかね。青盤から恋盤(『恋、それは電影』)にかけて自分の気持ちを炙り出していく作業みたいなものをすごく時間をかけてやりましたし、そういった意味で真摯な姿勢がすごく出ている作品になっていて、そのグラデーションもおもしろかったなって思います。
──その中で今回のアルバムのテーマやコンセプトっていうのはどういうふうに見つけていったんですか?
宮崎 えっと、恋盤にしたいなって気持ちはすごくあって。これはそんなに深く考えてはいないんですけど、やっぱりラブソングって力強いなと思いますし、自分が逃げることなくラブソングを書くとなったらどういうふうになるんだろうっていうので、アルバムの全曲をラブソングにするっていう試みはおもしろいんじゃないかな、と思ったんですよね。で、そうなったとき、人から人に対する恋心だけがラブソングではないなって。
人は物とか出来事とか、あと記憶とかバンドとか象徴とか、そういったものにも恋心を抱くというか。そういった意味でラブソングってものを新しい切り口で捉えてみたいなって思いまして、それを今の自分でどうなるかってなったのが最初の起こりでした。そこから制作していく過程でどんどん自分の生活の変化とかが出てきて、心境の変化もすごくあったので、すごくリアルタイムなアルバムになりました。作っている間にすごくうごめいていった感じがしているので、それを含めて「恋」だな、というか。
──もともと、恋というかラブソングはいろいろな形で書いてきたと思うんですよね。それと今回は何が違うと思いますか?
宮崎 自分の意思がより介入しているかいないかというのが結構違うかなと思います。ファーストアルバム『星に願いを込めて』とか初期作では完全に妄想で描いているんですよね。それはそれで試みとしてはおもしろいんですけど、ラブソングって本来は自分の気持ちとか実体験を込めるものだと思うんです。でもそういうのは逆にやっていなかったんですよね。クジラ夜の街にとってはそれが邪道なんですよ。そういう意味で言うと、今回は宮崎一晴っていう本当に実在する人間が弾き出すラブソングって何なんだろうっていうのを自問自答して作ったっていう点で、恋盤のラブソングとその他のラブソングは種類が違うんじゃないかなって思います。
──そこに電影、映画っていうモチーフが重なってきたのは、どういうことだったんですか。
宮崎 「電影」って言葉がまずすごくかっこいいなって思っていて。2つ意味があるんですよ、電影って。映画という意味と雷という意味と。恋って映画のように物語があってずっと残り続けるものでもあるし、逆に稲妻のような一瞬の衝撃でもある。永遠性と刹那の性質の両方を兼ね備えているものが恋だなと思ったので、このタイトルを冠しました。
──メンバーのみなさんはテーマも含めてアルバム全体を通してどんな印象を持ちますか?
山本 僕は、パッと曲だけを見たら「恋がテーマのアルバム」ってあまり思わないと思うんですよ。でもそれを恋と映画という2つに結びつける一晴ってすごいなって素直に思います。一晴が人だけじゃない、いろいろなものに対しての恋が根底にあるということをよく話すんですけど、「確かに恋ってそうだよな」と思って。自分だったらたぶん楽器とかギターに恋してるし、「これも恋だよな」っていう。自分の視界が開けるような感じがします。すごいですよね。身近にそんなことを考えてる人間がいるんだって。
宮崎 ありがとうございます。
秦 あと、今曲名を眺めると、言われてみたら全曲映画にできそうな感じがする。タイトルだけ見ても映画っぽいかもって思うし、こういう映画があったら観たくなるよなって思う。それこそ1曲1曲にちゃんとストーリーがあるんで、「え、なんかすごくね?」みたいな。普通に「売れていいでしょ」って思いますね。
宮崎 確かに映画タイトルっぽさはありますね。いろんなジャンルの映画のタイトル。
秦 「せいかつかん」だったらでかいコントだし、「SHUJINKO」だったらちょっとアメコミっぽいとか。「失恋喫茶」っていう造語の四字熟語っていうのも映画っぽいし。最高っすね。個人的にいちばん観たいのは「ホットドッグ・プラネッタ」かもしれない。
宮崎 俺も観たい(笑)。
──ちょっとスペースオペラみたいな、アニメっぽい感じもありますよね。タイトルだけじゃなく、歌詞もすごく映像的な描写が増えている感じがします。
秦 「ホットドッグ・プラネッタ」は本当にそうですね。歌詞ってそんなに分量多くないじゃないですか。だから全部を語ろうとすると……本だったら、全体を伝えるために7割書いて3割想像させるみたいなことができるけど、歌詞は少ないからそんなに書けないんですよね。「ホットドック・プラネッタ」みたいな、ちゃんと舞台背景がある場合って絶対難しいと思うんですよ。でもこの曲はなんかわかるんですよね。情景がちゃんと補完されてるっていうか。最初の〈銀河のはずれ〉でもう背景がポンって用意されて、その背景の中で細かい、ちょっとした描写が何個か連続して、それによって大きな世界が構築されていく。それは一晴のおもしろい手法だなって。
──しかも結構リアルな情景というか、
秦 うん。バンドに恋するファンとかって、ファンタジーではあるんですけど、実際に存在する構図じゃないですか。リアルに近いファンタジーだなって。
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