2024.12.07 18:00
2024.12.07 18:00
2023年12月にアルバム『月を読む絵本』をリリースし、年明けからツアー「輝夜を捜して」で全国を巡ったクジラ夜の街は、そこから新章に突入していった。6月に行った7周年記念ライブ「7歳」では初のホールワンマンを経験、7月にリリースしたEP『青写真は褪せない』では音楽的に大きな進化を刻み……そんな過程の先で生まれたニューアルバム『恋、それは電影』は、コンセプトの面でも、サウンドの面でも、そして宮崎一晴の書く歌詞の面でも、ブラッシュアップされた最新のクジラ夜の街の姿がはっきりと見える作品となった。
17歳のときに書いた曲から今の気持ちを投影した新曲まで、さまざまな「恋」を歌う全12曲。「ファンタジーを創るバンド」を標榜する彼らの描く世界はどんどん広がっている。
方向性の違いを楽しむのがバンドだと思う
──今年に入り、クジラ夜の街としては新しいフェーズに入った感じがありますね。
宮崎一晴(Vo/Gt) 今年はツアーから始まったので、まずはその「輝夜を捜して」というツアーをやり切ってから2024年が始まった感じがするんです。しかも5月は僕がちょっとお休みをしたので(喉の手術を受けるため休養)、6月のホールワンマンと青盤(2024年7月リリースの『青写真は褪せない』)のリリースとかと合わせて僕たちの2024年が始まっていったなと感じます。だから本当にめまぐるしいなっていう印象が強いんですけど、常に曲のクオリティに磨きをかけようっていう気持ちはみんな持って臨めているんじゃないかなと思うので、楽曲の制作にはより力が入れることができたんじゃないかなと。
──うん。音楽的に進化というか洗練というか、いろいろな意味で変わっていった感じがしますよね。
宮崎 そうですね。ただ作るだけじゃなくて、ちゃんと考えて制作していくっていうのが今年だったんじゃないかな。
──薫くんはどうですか?
山本薫(Gt) 今年いちばん思っていたのは「ヒットを出さなければいけないな」っていうことで。でもそう思っているのと同時に、「そこにこだわり続けていいのか?」みたいなのもあって。大衆というか、いろいろな人に刺さるものを作ろうとしすぎて、自分たちのやりたいこととか持ち味を生かしきれない作品にしてはいけないなっていう。それを思いながらライブだったりレコーディングに臨んだりっていうのがあったんですけど、そういう思いがあったからこそ今作では新しいクジラ夜の街の一面を出せたのかなっていうのはあります。今までは結構自分のやりたいことを詰め込むみたいなことが多かったんですけど、そこからひとつ抜け出せたのかなって。
──それはアルバムを聴いていてもすごく感じました。テーマも含めてちゃんと他者性があるというか、他者がいる状態で作れた感じがする。佐伯くんは?
佐伯隼也(Ba) 自分の中では『青写真は褪せない』に入っている「Saisei」という曲を作ってから自分の作るベースが1段階アップしたなと思っています。今までクジラ夜の街で作ってたベースもいいんですけど、新しいものを見つけたなって。
──その新しさっていうのはどういう部分?
佐伯 ちょっと特殊な音を使ってたりとか、あと今までの自分のポリシーとして、ルートを弾きつつたまにハイフレットに行って遊ぶっていうのがあったんですけど、「Saisei」ではフレーズを場所ごとにも確定させて、機械的に同じフレーズを繰り返すっていうのをやって。それをやりつつ今までの自分も出していくといういいバランスが取れた。
──この『恋、それは電影』でも挑戦はあった?
佐伯 そうですね。「End Roll」という曲でシンセベースが入ってるんですけど、それもライブでできたらなって思っています。
──秦くんはどうですか?
秦愛翔(Dr) 僕は、このアルバムに関しても、早く世間に見つかってほしいなって思うばかりです(笑)。自分たちはいろんなこと、いろんなジャンルをやってると思うし、僕個人にしても結構ドラマーとしておもしろいことをやり続けているはずだから。自分たちのやってることに誇りをすごく感じるので、早めに誰か見つけてほしい。特にこれはすごいアルバムだから、ひとりでも多くの人に聴いてほしいなっていう気持ちです。
──薫くんも「ヒットを作らないと」って言っていたし、秦くんも「見つかってほしい」と言っていたけど、一晴くんとしてはそのあたりは今どう考えているんですか?
宮崎 もちろん広がりたいという気持ちっていうのはずっと初期から持ち続けているし、それは変わらずあるんですけど……なんだろうな、今作はメンバーそれぞれの自我みたいなのがより出たアルバムになったなあって思っていて。バンドってやっぱりそれが大事というか、プレイヤーひとりひとりの個性がどんどん際立っていって、最終的に個々人がすごくいいプレイヤーになって、それがバンドになったときにより爆発していくっていうものだと思うんです。そういう意味でいうと、今回は個々の「ヒットしたい」という気持ちに合わせて楽器のアレンジはどうしようかとかをみんな考えてくれた印象があって。
──なるほど。
宮崎 逆に自分は、ヒットさせたいという気持ちはもちろんあるんですけど、より自分に嘘をつかないような楽曲を作っていきたいなっていう気持ちになっていったところがあるので、そのいい意味での方向性の差異みたいなものがうまく作用しているんじゃないかなって。これ、僕の信条なんですけど、全員が同じ方向を向いているバンドはいいバンドにならないだろうと思うんです。「方向性の違い」とかで解散するバンドがいるんですけど、方向性の違いこそが僕はバンドが最も大事にすべきことだと思っていて。方向性が違う者たちが集まっていて、そいつらが一体どこへ向かっていくのかっていうのを楽しんでいく、それを洗練させていくのがバンドだと思うので、その部分がより強調されたんじゃないかなと思いますね。
次のページ